當麻蹶速と野見宿禰



何が正しく、何が邪(よこしま)なのか。
地中の邪気は、作物の生育を邪魔し、人々の生活を奪います。
ならば正しいことはその逆にあります。
おいしい作物を育み、人々の生活を活気にあふれたものにするのです。それが真っ直ぐな道です。
そのために行うのが「たける(竹る)」です。漢字では「武」と書きます。「武」は、単に「試合に勝つ」ためにあるのではありません。一人でもおおくの人々のために役立てるようになっていくこと。そのために日々精進するのが武(たける)道(みち)です。
それが日本古来の武の道の考え方です。

20220401 野見宿禰
画像出所=https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E8%A6%8B%E5%AE%BF%E7%A6%B0#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Nomi_no_Sukune_Wrestling_with_Taima_no_Kehaya_LACMA_M.84.31.87.jpg
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相撲の始祖とされているのが野見宿禰(のうみのすくね)と當麻蹴速(とうまのけはや)です。
二人の試合は紀元前23年、垂仁天皇の時代にあった出来事とされています。

野見宿禰は、天穂日命(あめのほひのみこと)の一四世の子孫と伝えられる出雲国の勇士です。
日本書紀に詳しく書かれていますので、現代語に訳してみます。

 *

第11代垂仁天皇(すいにんてんのう)が即位して7年経った7月7日のこと、天皇の近習が、
「當麻邑(とうまむら)に當摩蹶速(とうまのけはや)という名の
 おそろしく勇敢な人がいて、
 力が強く、日頃から周囲の人に、
 『国中を探しても我が力に比べる者はいない。
  どこかに強力者(ちからこわきもの)がいたら、
  死生を問わずに全力で争力(ちからくらべ)をしたいものだ』と言っている」
と述べました。これを聞かれた天皇が、
「朕も聞いている。
 當摩蹶速(とうまのけはや)は天下の力士という。
 果たしてこの人に並ぶ力士はいるだろうか」
と群卿に問われました。一人の臣が答えました。
「聞けば出雲国に野見宿禰(のみのすくね)という勇士がいるそうです。
 この人を試しに召して蹶速(けはや)と当たらせてみたらいかがでしょう」

こうして倭直(やまとのあたい)の先祖の長尾市(ながおいち)が遣(つか)わされて、野見宿禰が都に呼び寄せられました。

いよいよ試合の当日、両者は相対して立ち、それぞれが足を上げて揃い踏みを行いました。
そして両者は激突しました。
その瞬間、野見宿禰が當摩蹶速の肋骨を踏み折り、さらにその腰骨を踏み折って殺しました。

勝者となった野見宿禰には、大和国の當麻の地(現奈良県葛城市當麻)が与えられ、野見宿禰は、その土地に留まって朝廷に仕えました。

垂仁天皇の皇后であられた日葉酢媛命(ひばすひめのみこと)が崩御されたとき、殉死に代えて人の形をした土器を埋めることを提案したのも野見宿禰です。これが埴輪(はにわ)の由来です。

 *

ここに日本武術の心得の根幹が書かれています。
當摩蹶速は、自分を天下の力士と自慢していました。
一方野見宿禰は、勇士と呼ばれながら、自らを誇ることがありませんでした。
試合の結果は一瞬で決まりました。

天狗になっていた當摩蹶速が負け、自らを誇ることなく、寡黙に精進を続ける野見宿禰が勝ちました。
そして戦いに際しては、躊躇することなく、瞬間に肋骨を踏み折り腰骨を砕く。
鬼神のような強さを発揮する。
ここに日本武道の根幹があります。

刀はよく切れるから、鞘に収めるのです。
そして日々、打ち粉を用いて磨き続ける。そうすることで日本刀はその威力を保ち、また刀を使う者自身も、日々鍛錬を怠らない。圧倒的な力を持ちながら常に謙虚でいて、日々精進を怠らない。だから強い。

筆者の友人のある武道家の先生は、日頃は本当に大人しい紳士です。
体躯もごく普通です。
けれどそこに道場破りにやってきた強いと自慢の巨体のレスラーは、先生を一方的にヘッドロックした瞬間、天井まで吹き飛ばされて気を失いました。
それでいて先生は着衣も髪の乱れもない。
一瞬の出来事です。これは実際にあった出来事です。

その先生もたいへんな人格者ですが、野見宿禰が後年、殉死を埴輪に置き換えたという伝承も、そうした建言が容(い)れられたのは、野見宿禰がただ強いことを鼻にかけるような鼻持ちならない痴れ者ではなく、その人格が人々から認められていたことを日本書紀は書いています。
強いだけが男ではないのです。

文中に7月7日という記述がありましたが、つい最近までは毎年田植えが終わった7月に、全国の神社で、町や村の青年たちによる奉納神前相撲が行われていました。
いまでも地方によっては行なっているところもあるようです。
これも、もともとは野見宿禰の試合前の揃い踏みに依拠します。

田植えのあとに、神官がまず土俵を塩で清め、その土俵に村の力自慢の力士たちがあがって四股(しこ)を踏みます。
塩をまくのは、「清めの塩」で「土俵の上」の邪気を祓い清めて怪我のないように安全を祈るためです。
四股はもともと「醜(しこ)」で、地中の邪気を意味します。清められた土俵の上に力士たちが上り、そこで地中の「醜」を踏みつけて「地中の」邪気を祓います。
そうすることで、植えた苗がすくすくと育つようにと願うのです。

ここにも日本の武道に関する考え方が色濃く反映しています。
すなわち武は、あくまで「邪(よこしま)」を祓い、ものごとを「たける(竹のようにまっすぐに正す)」ものである、という思想です。

革命や改革など、政変は度々起こります。
これは我が国の歴史にも何度もあったことです。
けれどそこで必要なことは、改革しようとする側が、あくまで「たける」存在であることです。
改革しようとする側が「邪」であってはならなし、自分たち利益ばかりを優先する者であってはなりません。
その典型がレーニン、スターリンであり、毛沢東です。ただの虐殺者です。

何が正しく、何が邪(よこしま)なのか。
地中の邪気は、作物の生育を邪魔し、人々の生活を奪います。
ならば正しいことはその逆にあります。
おいしい作物を育み、人々の生活を活気にあふれたものにするのです。
それが真っ直ぐな道です。

そのために行うのが「たける(竹る)」です。漢字では「武」と書きます。
「武」は、単に「試合に勝つ」ためにあるのではありません。
一人でもおおくの人々のために役立てるようになっていくこと。
そのために日々精進するのが武(たける)道(みち)です。

それが日本古来の武の道の考え方です。



※この記事は2022年4月の記事の再掲です。

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にせん

竹のようにまっすぐしなやかに
慎ましく。日本を変えるために
動いて参ります。

塩の話も7月の話も大納得です。
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