《解説》
上の現代語訳では、群卿百寮(ぐんけいひゃくりょう)を「国家の官僚や議員」と訳させていただきましたが、文意は、むしろ「人の上に立つ者」という意味に近いかと思います。
なぜなら企業や、集団をなす組織や団体においても(つまり組織規模の大小に関わらず)、礼を根幹に置くということは、大切なことだからです。
この「礼」は、上の読み下し文では「うや」とふりがなを付けさせていただきましたが、もともとの書き方は「ゐや」です。
「ゐ」は、現代語では「い」と表記されますが、発音的には、わ行で「うぃ」に近い発音になります。
たとえば、「ウイスキー」は本当は「うゐすきー」で、発音は「ううぃすきー」のような感じになります。
同様に「礼(うや)まふ」は「うやまう」ではなくて、「うぃやまう」のような発音が日本語本来の正しい発音であったわけです。
日本語は、もともと一字一音一義の言語ですが、「ゐ」と発音された漢字は「井・胃」などで、井戸は「うぃど」、胃袋は「うぃぶくろ」と発音されていました。
つまり「ゐ」は、深い穴を意味するニュアンスを含むものに当てられたわけです。
「礼」という漢字の訓読みは「ゐや(うぃや)」ですが、
ゐ=深い穴
や=飽和、あまねく行き渡ること
ですので、簡単にまとめれば、
「相手への思いやりや尊敬の心で、
心身がいっぱいになった状態で行うのが礼(ゐや)」
ということになります。
日本人にとっての礼節は、単に頭を下げたり、両手をついたりする儀礼ではなく、
「相手への思いやりの心で満たされた心の発露として、
相手に対して明示的に行われる作法
と理解されてきたわけです。
ですから「国家の官僚や議員は、礼を根幹としなさい」というのは、
「人の上に立つ者は、
下にいる者への思いで心をいっぱいにし、
十分な尊敬の心を持って
下の者たちと接しなさい
という意味である、ということになります。
続く言葉は「其治民之本 要在乎礼」です。
民衆を治めるための根幹は必ず礼にあるというのですが、「礼(ゐや)」が相手への尊敬の思いから全身全霊で発するものであれば、これは当然のこととなります。
我が国は天皇のシラス国であり、民衆は国家最高権威である天皇の「おほみたから」なのですから、その「おほみたから」に全身全霊を込めて、彼らが豊かに安全に安心して暮らせるようにしていくことが群卿百寮(ぐんけいひゃくりょう)の仕事であり、それが天皇にお仕えする者の根幹となる心得とされてきたわけです。
そして文は、
「上に立つ者に礼がなければ、下にまとまりがつかず、
下にある者に礼がなければ、必ず罪が生まれます」
と続きます。
「ゐや(うぃや)」が、相手への思いやりや尊敬の心で心身がいっぱいになった状態で行うものであれば、これは当然のことです。
上に立つものが、民衆のことを本気で思いやらなければ、民衆にまとまりはつきません。
単に仕事だから、権限を与えられているからと、機械的に下のひとたちを取り仕切ろうとしても、民衆は、そのような事務的な人物には、すぐにそっぽを向いてしまいます。
現代では、ポストがもたらす権限があれば、人を動かすことができると履き違えている人が多いですが、これは部下を持ったことがある人ならば、きっとおわかりいただけることだと思うけれど、部下は上司の本気についてくるものです。
上司が生半可な気持ちや態度でいれば、部下はすぐに面従腹背になります。
この点、最近の若い人でセミナーなどを自ら開催して成功している若者たちを見ると、彼らの顧客への向き合い方は、まさに本気ですし、一生懸命ですし、常に笑顔を絶やさない。
ポストが与えてくれる権限に甘えるのではなく、人間として本気で顧客(セミナー参加者)と接しようとしているわけです。
これは日本社会の、大きな構造変化のひとつを示すものであろうと思います。
一方、下の人の側に「礼(ゐや)」がなければ、そういう部下は、必ず罪をつくると十七条憲法は説きます。
これは単に面従腹背になるということを意味するだけでなく、礼が意味するものが「相手への思いやりや尊敬の心で心身がいっぱいの状態」であり、それが下にない、ということは、ハナから上司のことを尊敬していないし、言うことを聞く気もないということです。
そうなれば、世の秩序が乱れます。
そして秩序が乱れた世の中では、あらゆることに必ず奪い合いが起こります。
つまり公然と悪事が行われるようになるわけです。
だからこそ、「国家の官僚や議員に礼があるときは、世の中の秩序は乱れず、百姓に礼があるときは、国家はおのずから治まるもの」となるわけです。
ここで「百姓(ひゃくせい)」について、触れておかなければなりません。
最近では「百姓」は差別用語だとバカな学者さんが主張しているそうですが、文武百官という言葉があるように「百」という字は「数え切れないくらいたくさんの」という意味です。
そして「姓」とは「かばね」のことです。
氏姓制度というのですが、
「氏(うじ)」というのは、いわば地方ごとの血縁集団です。
「姓(かばね)」というのは、身分や地位ごとに与えられた姓です。
ですからたとえば、
「氏」が、千葉県の千葉氏の一族の血縁集団であり、
「姓」が、千葉県内の織物会社で勤めているから
「私は、千葉氏の一族の、織部(おりべ)の三吉と申します」
なんてことになるわけです。
そしてこの姓は、庚午年籍のような戸籍制度によって、ひとりひとりの民が国に登録され、国に登録された民は、そのまま公式な天皇の「おほみたから」とされたわけです。
つまり、日本国内に数ある姓氏は、天皇の「おほみたから」であることを示す、立派な由緒を持つわけです。
だからこそ江戸時代においても、百姓一揆というのは、
「オラたちは天朝さまから認められた天下の百姓だ。
木っ端役人なにするものぞ」
という気概に基づくものでした。
その百姓という、栄えある言葉を、差別用語と決めつけるような人は、日本戸籍があっても日本人ではありません。
ちなみにこの戸籍制度ですが、最初に行われた戸籍は、6世紀の中頃の欽明天皇の時代に作られた戸籍(へのふみた)で、そこには「秦人の戸数7053戸について、大蔵掾(おおくらのふびと)が戸籍(へのふみた)をつくり、登録された秦人たちを『秦伴造(はたのとものみやつこ)』とした」という記録があります。
つまり我が国の戸籍制度の、ことはじめは、もともとは外国人の登記からはじまったわけです。
当時の秦氏の一族は、これをとてもよろこび、秦氏の一族は、そこから全国に、秦国に伝わった絹織物の技術や武道を伝え、広めていきました。
秦氏は、戸籍がしっかりすることで、ひとりひとり素性が明らかになり、これがために職業集団として日本各地の村落に受け入れられるようになり、秦氏が日本社会に溶け込むことができた一因となっています。
戸籍を得ることで信用と信頼を身に付けて日本中に親しまれて1400年以上にわたって日本で繁栄を続けている秦氏と、戸籍を否定し、悪行の限りを尽くしても、それらを曖昧にしようと画策する昨今の渡来系の人たち。
果たして戦後の渡来人たちの未来は、どうなっているのでしょうか。
さて、話が脱線しましたが、この第四条の原文には「礼」という漢字が6回も出てきます。
漢文というのは、基本的に同じ文字の繰り返しをきらいます。
ですから、同じ漢字が二度繰り返されたら、それは重要語だということになるし、三度繰り返されたら、それは最重要語ということになります。
ところがこの第四条で「礼」は6回です。
つまり、十七条憲法は、「礼」という語と概念を、ありえないほど重要視している、ということです。
そして繰り返しになりますが、「礼」の意味は、相手を心底敬(うやま)うことです。
ひとりひとりを大切に。
それは十七条憲法以来の、日本人の精神性と社会秩序の根幹です。
また、「礼を失った者は、必ず悪事に走る」ということも、とても重要な箇所ですので、ぜひとも覚えておきたいところです。
お読みいただき、ありがとうございました。
日本をかっこよく!! むすび大学。
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コメント
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→ イミン党も、今の与野党も、消費増税、コロナの禍いに対して、下に礼どころか何の政策もせず、米中の『日本犬はステイしとけ!』だけは礼を尽くして守るのな。
→ あと、バブル期よりも多いと言う、若い子に多いのが、開口一番『タメ口で良いです!上にも下にも僕は言ってます☆すぐに仲良くなりたいので、堅っ苦しいの嫌いだし』
↑やはり親しき仲にも礼儀あり、タメ口利き始めるのは、本当に心が打ち解けてからだろうが。と、私はいつも言い返しますが。
↑これ、ねず先生、思い当たるエピソードがございましたら、お聞かせ願いたいものです。
◆最初に行われた戸籍は、6世紀の中頃の欽明天皇の時代に作られた戸籍(へのふみた)で、そこには「秦人の戸数7053戸について、大蔵掾(おおくらのふびと)が戸籍(へのふみた)をつくり、登録された秦人たちを『秦伴造(はたのとものみやつこ)』とした」という記録があります。つまり我が国の戸籍制度の、ことはじめは、もともとは外国人の登記から。
→特定永住者問題。これをちゃんと受け継いでいれば、ザイニチ問題やら通名問題、安倍政権からのイミン問題インバウンド問題って、起こったのか。学べば学ぶほどに自警団が必要になってくる、今日この頃です。
以上
2021/04/09 URL 編集