• 清陽(すみてあきらか)と重濁(おもくてにごる)


    ときに重く濁った気持ちになってしまうのだって、当然です。
    なぜなら、それは「もとからあるもの」だからです。
    でも同時に私達の中には、清陽(すみてあきらか)なるものが存在します。
    清らかで、陽(ほがら)かなものが、ちゃんと内在しているのです。
    だからいまは落ち込んでも、次の瞬間には、笑顔でいることもできるのです。
    それが人間です。

    20201220 上高地
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    小名木善行です。

    日本書紀の冒頭に「清陽」という文字が見られます。
    このように書いて「すみてあきらか」と読みます。
    「清(きよ)らか」であることは大切です。
    だから、体《身》のよごれなら、お風呂に入って落とします。
    同様に魂《霊(ひ)》の穢(けがれ)なら、神社に参拝したり、お祓いをしてもらって、これを祓(はら)います。

    けれど日本書紀は「それだけではダメだ」と書いています。
    もうひとつ、
    「陽」でなければダメだ、と書いているのです。
    「陽」という字は、このようにかいて「あきらか」と読み下します。
    そして「陽光のように明るい、あたたかい」そして「ほがらか」という意味を持ちます。

    つまり日本書紀は、清らかであるだけでなく、ほがらかで陽気なくちゃダメだよ、と書いているわけです。
    それが、日本書紀の冒頭、いちばんはじめにかかれています。

    いにしへの             古
    あめつちいまだ  わかれずに    天地未剖
    かげあきらかも  わかれずに    陰陽不分
    とりのこのごと  こんとんの    渾沌如鶏子
    ひろがるうみに  きざしあり    溟涬而含牙
    すみてあきらか  なるものは    及其清陽者
    うすくたなびき  あめとなり    薄靡而為天
    おもくてにごり  たるものは    重濁者
    つつひてつちと  なりにけり    淹滞而為地

    《現代語訳》
     大昔、天地がまだ分かれていなくて、陰陽もまた分かれていない混沌としたなかに、ほのかな兆(きざ)しがありました。その兆(きざ)しの中の清陽(すみてあきら)かなものが薄くたなびいて天となり、重くて濁(にご)っているものが、停滞して地(つち)になりました。美しく言いようもなく優れたものは広がりやすく、重くて濁ったものは固まりにくかったため、先に天が生まれ、後に地が定まりました。


    ▼清陽と重濁から神様は生まれた

    日本書紀には古事記のような前文がなく、いきなり本文がはじまります。
    その冒頭の言葉が「古天地未剖(いにしへの あめつちいまだ わかれずに)」です。

    天地がわかれることに、解剖するときに使う「剖」という字を充てています。
    この字は刃物を使って二つに切り裂くことを意味する漢字ですが、その天地はもともと別れてなどいない、陰陽も別れていなかったと日本書紀は記述しています。

    よく「日本書紀は中国古来の陰陽道に基づいて書かれた」と言う人がいます。
    しかし中国における陰陽思想は、陰陽は対立概念であり二元論です。
    しかし日本書紀は、陰陽はそもそも一体だと書いているわけです。
    このことは、「日本書紀は陰陽思想ではありませんよ」と、冒頭で宣言しているようなものです。

    そこから、清陽と重濁が別れます。
    清陽は「すみてあきらか」と読みますが、清らかで、かつ陽気なものです。
    それが薄く広がって天になった。
    そして重くて濁ったものが下方に固まって地(つち)となったと書いています。

    そしてここが大事なのですが、こうしてできあがった「天地」に、最初の神様である国之常立尊(くにのとこたちのみこと)がお化(な)りになります。
    そして続けて国狭槌尊(くにのさつちのみこと)、豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)がお生まれになられたと書いています。

    一般に神様といえば「天にまします清(きよ)らかな御存在」と認識されます。
    しかし日本書紀は、そうではなく、「清らかな天」と「重くて濁った地(つち)」で出来た天地に、最初の神様がお化(な)りになられたと書いているのです。
    神様の中にも、重くて濁ったものがあるのです。
    ましてや我々人間の身は、その重くて濁った地(つち)でできた作物によってできています。
    つまり、もともと人の体は、そもそもが重くて濁っているのです。

    ですから、ときに重く濁った気持ちになってしまうのだって、当然です。
    なぜなら、それは「もとからあるもの」だからです。

    でも同時に私達の中には、清陽(すみてあきらか)なるものが存在します。
    清らかで、陽(ほがら)かなものが、ちゃんと内在しているのです。

    だからいまは落ち込んでも、次の瞬間には、笑顔でいることもできるのです。

    それが人間です。


    お読みいただき、ありがとうございました。
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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
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昭和31年生まれ。浜松市出身。上場信販会社を経て執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。またインターネット・ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。「歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに」という理念を掲げ活動する。古事記・日本書紀・万葉集などの原文を丁寧に読み解き、誰にでも納得できる日本論を発信。

《著書》日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、その他執筆多数。

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