• 10円玉に学ぶ武士道精神


    次回倭塾は9月18日(土)13時半から富岡八幡宮婚儀殿。
    テーマは「ご先祖から預かった大切な日本」です。
    詳細は→https://www.facebook.com/events/453891059222691


    10円玉に描かれた鳳凰堂。
    いまではそれが世界遺産にまでなっていますが、その鳳凰堂から学ぶものは、贅沢三昧な暮らしではなく、実は、質素倹約を重んじ、魂をみがくことを第一とした武士道そのものにある。あるいはもっというなら、平時においては贅沢を慎み、いざというときのために常に備えを怠らないという日本精神そのものの象徴ともいえようかと思います。

    20200820 平等院鳳凰堂
    画像出所=https://in.pinterest.com/pin/344173596516490331/?nic_v2=1a668yKoA
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    歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに
    小名木善行です。

    567で家にいることが多くなり、断捨離をすることが広く行われるようになりました。
    かくいう筆者も、ほんのすこしずつではありますが、室内の断捨離を進めています。

    そういえば、小銭入れに入っている10円玉。

    この10円玉は、昭和26年から用いられているものですが、昔は10円玉の周囲の縁にはギザギザがありました。
    そのギザギザがなくなったのが昭和34年のことで、小学校時代、ギザギザのある10円玉を集めて喜んでいたことがあります。
    そのギザギザのある10円玉の時代から、現在に至るまで、10円玉の表裏のデザイン(表面:平等院鳳凰堂、裏面:常盤木(ときわぎ))は、昭和26年の発行年から、ずっと変わっていません。かれこれ69年間もの間、同じデザインが用いられているわけです。

    常盤木とは、常緑広葉樹のことで、普通は広葉樹は寒くなると落葉するのですが、その葉が散らない木のことを言いいます。
    日本では常盤木といえば、その代表格がクスノキ(楠)で、楠(くすのき)といえば、我が国の歴史上登場する数多(あまた)の武官武将のなかで、唯一、皇居に銅像が飾られている楠正成(くすのきまさしげ)が想起されます。

    一方、平等院鳳凰堂は、「この世をばわが世とぞ思ふ望月の かけたることもなしと思へば」の歌で有名な藤原道長の子である関白太政大臣・藤原頼通によって創建された建物です。
    往時には他に、本堂や多数の宝塔が立ち並ぶ寺院だったそうですが、度重なる京の都の火災で消失し、現在往時のままの姿で残っているのが、この鳳凰堂だけです。

    建造されたのは天喜元年(1053年)、いまから967年もの昔。
    もともとは阿弥陀堂とよばれていたのそうですが、建物を正面から見た姿が、まるで鳳凰が翼を広げた姿のようだということで、江戸時代の初め頃から鳳凰堂と呼ばれるようになりました。

    そしてこの場所は、かつて河原左大臣と呼ばれた源融(みなもとのとおる)が別荘を建てた地です。
    河原左大臣といえば百人一首に有名な

     みちのくの しのぶもぢずり たれゆえに
     乱れそめにし われならなくに

    の歌があります。
    そしてこの源融こそ、源氏物語の光源氏のモデルになった人物です。

    源氏物語の光源氏といえば、まさに貴公子であり、モテ系男子の典型で、下の絵は大和和紀さんの『源氏物語〜あさきゆめみし〜」からのものですが、おそらく下の絵のような、要するにイケメン男子というのが共通のイメージではないかと思います。

    20200820 光源氏2

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    ところが現実はなかなか厳しいもので、下は幕末から明治初期に活躍した菊池容斎が描いた河原左大臣《源融(みなもとのとおる)》ですが、おそらくまあ現実はこのようなものであったのかと。

    20200820 源融

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    さてこの源融ですが、お能の「融(とおる)」という演目が、この源融を題材に採った物語です。

    このお能の演目の中で、実は源融が、左大臣まで昇りつめながら、藤原氏との政争に敗れ、六条河原に大邸宅を造営して、余生を風雅のうちに過ごたことが描かれています。
    お能では、ひとりの旅の僧がこの六条河原を通りがかったところ、そこで源融の霊に出会う。

    その霊は、かつてここにあった邸宅は、陸奥の塩釜の景観を模したもので、毎日難波から海水を汲んで屋敷まで運ばせ、院の庭で塩を焼かせて楽しみとするという贅沢が行われていたけれど、後を継ぐ人もなく、この河原院は荒れ果ててしまったと嘆きます。
    そして最後は、その霊が、若々しい在りし日の姿・・・つまり「熱心に文武に励み、真剣に民を想って仕事をしていた純粋だった若き日の姿・・・となって月の都へと帰っていく、というのが、この「融」の物語です。

    お能は武士に愛された芸能ですが、なかでもこの「融」は、毎日難波から海水を汲んで屋敷まで運ばせるという贅沢な暮らしが、権力の座から降りた者が行う、いわば「敗軍の将の暮らし」に他ならず、現職にある者はそのような華美な暮らしをするものではない、という、贅沢にひたることの愚かしさをあらわした物語です。
    だからこそ「融」は、お能の代表的な作品として、毎年のように城内で演じられた能楽であったのです。

    その昔、武士は刀槍と具足(ヨロイのこと)以外は何も持たず、屋敷は常にガランとしていることが最上とされました。
    屋敷も贅沢な調度品も、時が建てばすべて失われていきます。
    けれど、今生の武勇と、身に付けた知性は魂となって世代を超越します。
    そしてその知性から生まれる和歌(うた)は、世代を越えて世に残る。
    昭和の軍人も、そうした武士道精神を濃厚に保持した人たちでありました。

    以前にも書きましたが、いまではお能といえば「侘び寂び幽玄の世界」などとばかり強調されますが、まったくこれは間違った見方です。
    そうではなく、武士道の根幹を学ぶための芸能が、お能であったのです。

    武士は子供の頃から、このお能に親しみ、そしてお能によって日本武士として必要な価値観を学び、そのうえで四書五経などの漢学を学びました。
    四書五経で学んだのは、チャイナやコリアの高官たちも同じですが、彼らの国に武士道が育たず、日本に武士道が育った理由は、まさにお能にあったのです。

    10円玉に描かれた鳳凰堂。
    いまではそれが世界遺産にまでなっていますが、その鳳凰堂から学ぶものは、贅沢三昧な暮らしではなく、実は、質素倹約を重んじ、魂をみがくことを第一とした武士道そのものにある。
    あるいはもっというなら、平時においては贅沢を慎み、いざというときのために常に備えを怠らないという日本精神そのものの象徴ともいえようかと思います。


    ※この記事は2020年9月の記事の再掲です。
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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
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昭和31年生まれ。浜松市出身。上場信販会社を経て執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。またインターネット・ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。「歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに」という理念を掲げ活動する。古事記・日本書紀・万葉集などの原文を丁寧に読み解き、誰にでも納得できる日本論を発信。

《著書》日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、その他執筆多数。

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