• 野見宿禰(のうみのすくね)と當麻蹴速(とうまのけはや)


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    刀で立てた藁を斬る抜刀術がありますが、普通は、藁が倒れる前に一太刀斬れれば、すごい腕前です。
    これが二太刀入れることができるようになると、相当な技量とされ、三太刀入れることができる人は、抜群の腕前とされます。
    ところが水軍の技術では、その藁が倒れる前に、揺れる船上で10太刀くらい、平気で斬ります。
    古い時代の日本武術の技量は、驚くほどの凄みがあります。

    20220925 當麻蹶速と野見宿禰
    画像出所=https://cultural-experience.blogspot.com/2017/10/blog-post_5.html
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    今年7月に刊行された拙著『日本武人史』から、相撲の元祖とされる野見宿禰(のうみのすくね)と當麻蹴速(とうまのけはや)の物語をご紹介してみようと思います。
    『日本武人史』は、日本武術の歴史を考えようとした本で、どの流派がどうのこうのということではなく、日本武術がどのような精神を持って発展してきたのかを、あらためて考察した本です。

    西洋では、戦いの最前線は奴隷兵であり、その奴隷たちが戦いのために闘技場で戦い、それがスポーツの起源になっています。
    それは戦いのための腕力の競争であり、このことが後に、オリンピック競技へと発展し、また格闘技としてのボクシングやレスリングへと発展しています。
    それらは、戦いのための技術競争でしたから、たとえば一発クリーンヒットしてダウンしたら、10秒数えて、試合の勝敗が決まります。

    ただ、西洋も、チャイナもそうなのですが、歴史の中で何度も国が滅んでいるため、武芸の技術そのものが伝承されず、常に新しいものとしてルールの中で勝敗を競うものとなっています。

    これに対し日本では、戦いは、家族や郷里を護ろうとする自衛から生まれ、その技術が長い歴史を通じて伝承されてきました。
    どんな世界にも、時折、天才と呼ばれる人が生まれるものです。
    その天才が、技を工夫し、武術の技能や精神が高まると、弟子となってその技術を修業する者があらわれます。
    そうして何世代か経つと、そこにまた天才が現れる。
    その天才が、さらに技や精神や修行方法を工夫し、そのまた弟子に伝承する。
    そんなことが、実は万年の単位で繰り返されてきたのが、日本です。

    縄文時代は、武器を持たない時代だったということは、このブログでも何度も取り上げさせていただいていることですが、これは「もしかすると」なのですが、縄文時代には、日本人は武術の体得が常識であったのかもしれません。
    縄文時代や、それ以前の新石器時代には、日本人は海洋民族で、葦舟に乗って世界を旅する民族であったわけですが、そういう生活では、当然に争いが起きたり、巻き込まれたりすることがあったであろうと思われるのです。

    ところがそんなとき、日本武術を会得していると、相手を叩きのめすのではなく、相手が、どうして自分が倒されたのかわからないまま、気がついたら降参しているという状況になります。
    敵が手に打物を持っていたとしても、魂を抜かれてしまうので、何もできないうちに、その打物を取り上げられてしまう。
    とても不思議なことですが、それが日本武術の源流です。

    倒された側が、どうして自分が倒れているのか、わからないのです。
    大人であれば、幼児が歯向かってきても、簡単に取り押さえることができます。
    その大人と幼児くらい、体術の技量に違いがあれば、それは現実になります。

    昔の日本人は、痩せて小柄でしたが、これは海洋民族として、船に乗る生活が万年の単位で続いたことが原因しているといわれています。
    ずっと後年の話になりますが、倭寇と呼ばれた日本の水軍は、とにもかくにも、圧倒的に強かったといわれています。
    それは、単に日本刀の切れ味が良かったということだけではなくて、体術も優れていたのではないでしょうか。

    今も残る村上水軍などの水軍の末裔に伝わる戦いの技術は、揺れて狭い船上で、縦横に相手を倒すものすごい技術です。
    柔道の試合で、そういう流れの小柄な人にあたったことがありますが、試合開始10秒もしないうちに倒されてしまったことがあります。
    そのときの印象は、どうして自分の体が宙に浮いているのかわからない。
    まるで自分の体が、羽のように軽くなったような感じで、気がついたら畳の上で受け身をさせられていました。
    とても不思議な感触です。

    刀を使う技術もそうです。
    刀で立てた藁を斬る抜刀術がありますが、普通は、藁が倒れる前に一太刀斬れれば、すごい腕前です。
    これが二太刀入れることができるようになると、相当な技量とされ、三太刀入れることができる人は、抜群の腕前とされます。
    ところが水軍の技術では、その藁が倒れる前に、揺れる船上で10太刀くらい、平気で斬ります。

    古い時代の日本武術の技量は、驚くほどの凄みのあるものなのです。

    どうしてそこまで技術を進化させることができたのか。
    これは、その底流に、大きな文化性があったからではないかと思います。
    そういう前提の上に、『日本武人史』でご紹介した野見宿禰(のうみのすくね)と當麻蹴速(とうまのけはや)のお話があります。

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    相撲の起源 當麻蹶速と野見宿禰と日本武道

     相撲の始祖とされているのが野見宿禰(のうみのすくね)と當麻蹴速(とうまのけはや)です。二人の試合は紀元前23年、垂仁天皇の時代にあった出来事とされています。
     野見宿禰は、天穂日命(あめのほひのみこと)の一四世の子孫と伝えられる出雲国の勇士です。
     日本書紀に詳しく書かれていますので、現代語に訳してみます。

     *

     第11代垂仁天皇(すいにんてんのう)が即位して7年経った7月7日のこと、天皇の近習が、
    「當麻邑(とうまむら)に當摩蹶速(とうまのけはや)という名のおそろしく勇敢な人がいて、
     力が強く、日頃から周囲の人に、
     『国中を探しても我が力に比べる者はいない。
      どこかに強力者(ちからこわきもの)がいたら、
      死生を問わずに全力で争力(ちからくらべ)をしたいものだ』と言っている」と述べました。これを聞かれた天皇が、
    「朕も聞いている。
     當摩蹶速(とうまのけはや)は天下の力士という。
     果たしてこの人に並ぶ力士はいるだろうか」
    と群卿に問われました。一人の臣が答えました。
    「聞けば出雲国に野見宿禰(のみのすくね)という勇士がいるそうです。
     この人を試しに召して蹶速(けはや)と当たらせてみたらいかがでしょう」

     こうして倭直(やまとのあたい)の先祖の長尾市(ながおいち)が遣(つか)わされて、野見宿禰が都に呼び寄せられました。

     いよいよ試合の当日、両者は相対して立ち、それぞれが足を上げて揃い踏みを行いました。
    そして両者は激突しました。
    その瞬間、野見宿禰が當摩蹶速の肋骨を踏み折り、さらにその腰骨を踏み折って殺しました。

    勝者となった野見宿禰には、大和国の當麻の地(現奈良県葛城市當麻)が与えられ、野見宿禰は、その土地に留まって朝廷に仕えました。

    垂仁天皇の皇后であられた日葉酢媛命(ひばすひめのみこと)が崩御されたとき、殉死に代えて人の形をした土器を埋めることを提案したのも野見宿禰です。これが埴輪(はにわ)の由来です。

     *

     ここに日本武術の心得の根幹が書かれています。
    當摩蹶速は、自分を天下の力士と自慢していました。
    一方野見宿禰は、勇士と呼ばれながら、自らを誇ることがありませんでした。
    試合の結果は一瞬で決まりました。天狗になっていた當摩蹶速が負け、自らを誇ることなく、寡黙に精進を続ける野見宿禰が勝ちました。そして戦いに際しては、躊躇することなく、瞬間に肋骨を踏み折り腰骨を砕く。鬼神のような強さを発揮する。ここに日本武道の根幹があります。

     刀はよく切れるから、鞘に収めるのです。そして日々、打ち粉を用いて磨き続ける。そうすることで日本刀はその威力を保ち、また刀を使う者自身も、日々鍛錬を怠らない。圧倒的な力を持ちながら常に謙虚でいて、日々精進を怠らない。だから強い。

     筆者の友人のある武道家の先生は、日頃は本当に大人しい紳士です。体躯もごく普通です。けれどそこに道場破りにやってきた強いと自慢の巨体のレスラーは、先生を一方的にヘッドロックした瞬間、天井まで吹き飛ばされて気を失いました。それでいて先生は着衣も髪の乱れもない。一瞬の出来事です。これは実際にあった出来事です。

     その先生もたいへんな人格者ですが、野見宿禰が後年、殉死を埴輪に置き換えたという伝承も、そうした建言が容(い)れられたのは、野見宿禰がただ強いことを鼻にかけるような鼻持ちならない痴れ者ではなく、その人格が人々から認められていたことを日本書紀は書いています。
    強いだけが男ではないのです。

     文中に7月7日という記述がありましたが、つい最近までは毎年田植えが終わった7月に、全国の神社で、町や村の青年たちによる奉納神前相撲が行われていました。いまでも地方によっては行なっているところもあるようです。これも、もともとは野見宿禰の試合前の揃い踏みに依拠します。

     田植えのあとに、神官がまず土俵を塩で清め、その土俵に村の力自慢の力士たちがあがって四股(しこ)を踏むのです。塩をまくのは、「清めの塩」で「土俵の上」の邪気を祓い清めて怪我のないように安全を祈るためです。四股はもともと「醜(しこ)」で、地中の邪気を意味します。清められた土俵の上に力士たちが上り、そこで地中の「醜」を踏みつけて「地中の」邪気を祓うのです。そうすることで、植えた苗がすくすくと育つようにと願います。

     ここにも日本の武道に関する考え方が色濃く反映しています。すなわち武は、あくまで「邪(よこしま)」を祓い、ものごとを「たける(竹のようにまっすぐに正す)」ものである、という思想です。

     革命や改革など、政変は度々起こります。これは我が国の歴史にも何度もあったことです。けれどそこで必要なことは、改革しようとする側が、あくまで「たける」存在であることです。改革しようとする側が「邪」であってはならなし、自分たち利益ばかりを優先する者であってはなりません。その典型がレーニン、スターリンであり、毛沢東です。ただの虐殺者です。

     何が正しく、何が邪(よこしま)なのか。
    地中の邪気は、作物の生育を邪魔し、人々の生活を奪います。
    ならば正しいことはその逆にあります。
    おいしい作物を育み、人々の生活を活気にあふれたものにするのです。
    それが真っ直ぐな道です。

     そのために行うのが「たける(竹る)」です。漢字では「武」と書きます。
    「武」は、単に「試合に勝つ」ためにあるのではありません。
    一人でもおおくの人々のために役立てるようになっていくこと。
    そのために日々精進するのが武の道です。
    私達はそのためにこの世に生まれてきている。
    それが日本古来の人の道の考え方です。

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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
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昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

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