• 清陽(すみてあきらか)


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    新年最初の倭塾は、1月21日(土)13:30から江戸川区タワーホール船堀 401号室で開催です。
    参加自由で、どなたでもご参加いただくことができます。
    皆様のふるってのご参加をお待ちしています。

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    遠い未来ばかりを夢見るのではない。
    過去の成功や失敗にばかりこだわるのでもない。
    いま、この瞬間に、できる最大の努力を積み重ねる。
    あたりまえのことですが、より良い未来にやってきてもらうには、それしか他に方法などない。
    そういうことを日本書紀は、冒頭で教えてくれています。

    20201220 上高地
    画像出所=https://www.nta.co.jp/media/tripa/articles/Z5ZoK
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    お正月、年のはじめですので、日本書紀の初めの部分を読んでみたいと思います。
    読み方は七五読みにしています。
    声に出してお読みいただくと、意外と意味がわかります。

    いにしへの                古
    あめつちいまだ  わかれずに    天地未剖
    かげあきらかも  わかれずに    陰陽不分
    とりのこのごと  こんとんの     渾沌如鶏子
    ひろがるうみに  きざしあり     溟涬而含牙
    すみてあきらか  なるものは    及其清陽者
    うすくたなびき  あめとなり     薄靡而為天
    おもくてにごり  たるものは     重濁者
    つつひてつちと  なりにけり    淹滞而為地
    くはしきたへは  ひろがりて     精妙之合博易
    おもくにごるは  かたまりがたし  重濁之凝竭難

    ゆへにさきには  あめがなり    故天先成而
    のちにはつちが  さだまりぬ    地後定
    しかるののちに  かみなかになる 然後神聖生其中焉

    ゆへにいはくは  かひびくの     故曰開闢之
    はじめくにつち  うかぶのは     初洲壞浮漂
    うをのみずにて  あそぶがごとし  譬猶游魚之浮水上也

    このときあめと  つちのなか     于時天地之中
    あしかびのごと  なりますは     生一物状如葦牙
    すなはちかみと  なりたまひ     便化為神
    くにのとこたち  みこととまをす   号国常立尊

    つぎにはくにの  さつちのみこと  次国狭槌尊
    つぎにとよくむ  ぬのみこと     次豊斟渟尊
    このみはしらの  かみさまは     凡三神矣
    あめのみちにて  ひとりなす     乾道独化
    ゆゑにすめれる  をとことなれり  所以成此純男

    《現代語訳》
     大昔、天地がまだ分かれていなくて、陰陽もまた分かれていない混沌としたなかに、ほのかな兆(きざ)しがありました。その兆(きざ)しの中の清陽(すみてあきら)かなものが薄くたなびいて天となり、重くて濁(にご)っているものが、停滞して地(つち)になりました。美しく言いようもなく優れたものは広がりやすく、重くて濁ったものは固まりにくかったため、先に天が生まれ、後に地が定まりました。
     その後に、神聖なるものがあらわれました。これが天地開闢(てんちかいびゃく)のはじめです。この天地開闢のとき、はじめに州(す)が浮かび漂いました。それはまるで、魚が水の上で遊んでいるかのような様子でした。そしてこの天地の中に、葦(あし)のようにスクスクと育つものがありました。それはついには神となりたまいて、国之常立尊(くにのとこたちのみこと)と号しました。次には国狭槌尊(くにのさつちのみこと)、次には豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)がお生まれになりました。
     この三柱の神様は、乾道(あめのみち)に独りで化(な)られた神様です。ですからこの三柱の神様は、純男(すめれるをとこ)の神と申します。

    ▼清陽と重濁から神様は生まれた

    日本書紀は古事記のような前文がなく、いきなり本文がはじまります。
    その冒頭の言葉が「古天地未剖(いにしへの あめつちいまだ わかれずに)」です。

    天地がわかれることに、解剖するときに使う「剖」という字を充てています。
    この字は刃物を使って二つに切り裂くことを意味する漢字ですが、その天地はもともと別れてなどいない、陰陽も別れていなかったと日本書紀は記述しています。

    よく「日本書紀は中国古来の陰陽道に基づいて書かれた」と言う人がいます。
    しかし中国における陰陽思想は、対立概念であり二元論ですが、日本書紀はそもそも一体だと書いているわけです。これは陰陽思想ではないと、冒頭で宣言しているようなものです。

    その渾然一体となったものから、清陽と重濁が別れます。
    清陽は「すみてあきらか」と読みますが、清らかで、かつ陽気なものです。
    それが薄く広がって天になります。
    重くて濁ったものは、下方に固まって地(つち)になります。

    そしてここが大事なのですが、こうしてできあがった「天地」に、最初の神様である国之常立尊(くにのとこたちのみこと)がお化(な)りになられます。
    続けて国狭槌尊(くにのさつちのみこと)、豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)がお生まれになります。

    一般に神様といえば「天にまします清(きよ)らかな御存在」と認識されるのですが、日本書紀は、そうではなく、「清らかな天」と「重くて濁った地(つち)」で出来た「天地」に、神様がお化(な)りになられたと書いています。
    つまり天地陰陽は一体であり、両方ともたいせつなものなのだ、と日本書紀は書いています。

    実は日本書紀は、その全編を通じて、農業《食》の大切さ、そして農業などの食料の生産者こそが「おほみたから」である、という姿勢を明確に打ち出しています。
    収奪する者、支配する者が偉いのではなくて、地(つち)にまみれて農業をするなど、食料を生産する人たちこそが、もっとも大切な日本の宝なのだという姿勢です。
    これは世界に類例のない、素晴らしい考え方です。

    そもそも私達の体は、地(つち)から生まれた作物などを食べて出来ています。
    その地(つち)は、重くて濁りたるものから生まれたものです。
    重くて濁ったものがなければ、私達は体を維持することができないのです。

    そうであれば農耕をする人たちこそが国の宝であり、その人達、つまり生産者たちが豊かに安全に安心して暮らせる社会でなければ国を家とする国家は成立しない。
    これが日本書紀の姿勢です。

    ですから神様が天(あめ)と地(つち)が織りなす世界にお化(な)りになられたという記述は、きわめて合理的かつ論理的な記述です。

    天は、「清陽」なものが薄く広がって生まれたものです。
    「清陽」は、こう書いて「すみてあきらか」と読み下します。

    清(きよ)らかであることは、とても大切なことです。
    しかし生きていれば、必ず様々な穢(けが)れを受けます。
    だから神社などでお祓いをしてもらって穢(けが)れを祓(はら)うのですが、日本書紀はそれだけではだめだと書いています。
    「陽=あきらか」でなければならないというのです。

    「陽」という字は、太陽のようにあたたかく、明るくほがらかで活発で、生き生きしていることを意味する字です。
    つまり日本書紀は、
    「清らかなばかりではダメですよ。
     陽気でほがらかで生き生きして
     活発でいることが大事です」
    と、私達に教えてくれています。


    ▼稲作を通じて国を為す

    この重濁と清陽から最初に生まれた神様が国常立尊(くにのとこたちのみこと)です。
    清(きよ)らかさと陽気さ、そして重く濁っているようだけれど、私達の肉体の基礎をなす作物を育てる地(つち)のすべての中心に、しっかりと常に立たれている神様です。

    次に化(な)られたのが国狭槌尊(くにのさつちのみこと)です。
    「狭(さ)」というのは両手ではさむこと、
    「槌(つち)」は木槌や大鎚などを意味します。
    つまり国狭槌尊は、「大鎚を手にして我々が住む世界の境界を定める神様」です。

    さらに読みの「さつち」は、「さ」が稲のこと、「つち」が「土」ですから、漢字の意味と合わせますと、
    「稲作を基にする国を
     大鎚を手にして護られている神様」
    という意味のご神名となります。

    次の豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)は、
    「とよ」が豊かな収穫、
    「くむ」は「汲む」、
    「ぬ」は完了ですから、
    「汲んでも尽(つ)きないほどの豊かな収穫をもたらす神様」です。いずれも農耕と深い関係を持つご神名とわかります。

    我が国は、地震や台風など、天然の災害が多発する国土を持ちます。
    万一のとき、大切なのは食料です。
    そして冷蔵庫がなかった時代において、数年単位の長期の保存ができる食料はお米しかありません。

    幸いなことに日本列島は細長い形状をしていますから、災害は全国が一斉に起きるのではなく、どこかの地域が自然災害で凶作になっても、別な地域は豊作であったりします。
    ですから日本全国で常にお米の備蓄を心がけることで、いざ災害というときに互いに助け合い、人々が生き残ることができます。
    だからこそ国史としての日本書紀は、その冒頭から稲作の大切さを神様のお名前として、明確に記述しているわけです。

    この国常立尊(くにのとこたちのみこと)、国狭槌尊(くにのさつちのみこと)、豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)の三神を合わせて「造化三神(ぞうかさんしん)」と言います。すべての原点となる三柱の神様、という意味です。

    そしてこの造化三神は「乾道(あめのみち)に独り化(な)られた神様で、ゆえに純男(をとこのかぎり)を成(な)します」と書かれています。
    「乾道(あめのみち)」というのは、冒頭に「清陽(すみあきらか)なものが薄く広がって天(あめ)となった」と書かれていますから、純粋で清らかで陽気な光りの世界です。
    この「乾(あめ)」に相対する語が「坤(つち)」です。
    ですから「乾坤(あめつち)」とは陰陽であり天地です。

    そして乾は陽気、坤は陰気で、それぞれ男女を表します。
    ですから「乾道独化、成此純男」は、純粋に天の気独(のみ)によって成(な)られたから「乾の神」=「純男(をとこのかぎり)」と書かれています。
    すなわち清陽と重濁の両方をたいせつにすることが、天の道《乾道》であり、神々のご神意であると、日本書紀は書いているのです。

    誰だって、重く濁った気持ちになったり、落ち込んだり、凹んだりすることがあります。
    「あっていいじゃないか」
    と日本書紀は書いています。
    だって、神様だって、重くて濁ったものを持っている。
    まして、私達人間の体は、その重くて濁ったものでできた地(つち)からできる作物を食べてできています。
    重たいものがあったり、落ち込んだりすることがあって当然なのです。

    けれど、私達の心には、そんな重濁だけではなく、清陽(すみてあきらか)なものも、ちゃんと宿っています。
    つらいことがあっても、かなしいことがあっても、凹んでも、
    それでも清陽な心を失わない。
    それが人間です。

    だから、人はあたたかい。
    そう信じて、希望をもって中今(なかいま)を生きるとき、道は必ず開けてくる。
    そういうことが日本書紀の冒頭に記されているのです。

    ここに、何があってもくじけず、人と人との間を生きて、どんな苦難をも乗り越えてきた先人たちの知恵があります。
    遠い未来ばかりを夢見るのではない。
    過去の成功や失敗にばかりこだわるのでもない。
    いま、この瞬間に、できる最大の努力を積み重ねる。

    あたりまえのことですが、より良い未来にやってきてもらうには、それしか他に方法などない。
    そういうことを日本書紀は、冒頭で教えてくれています。


    ※この記事は2021年1月の記事のリニューアルです。
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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

《動画》 「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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