弟橘比売命



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弟橘比売命
弟橘比売命


今日は、皇后陛下が英語でスピーチされたときに出て来た弟橘比売命のお話です。

 さねさし相武の小野に燃ゆる火の
 火中に立ちて問ひし君はも

この歌は、弟橘比売命(おとたちばなひめのみこと)が東京湾に入水自殺する直前に詠んだ歌です。
先に少し情況を申し上げますと、ヤマトタケルノミコトは、大和朝廷の全国統一のために、東奔西走したのですが、その東国征伐のときに、駿河の国(佐賀牟能国、相武の国)の焼津で、地元の国造(くにのみやつこ)に欺かれて、野原で火攻め(焼き討ち)にあうのです。
このとき、三種の神器のひとつである草薙の剣(くさなぎのつるぎ)で難を逃れるのですけれど、そのことが由来となって、静岡県に焼津の地名が残っています。

そしてさらに東へと向かったヤマトタケルノミコトの一行は、いまの神奈川県の横須賀あたりから、東京湾を横断して房総半島に向かおうとします。ここは海流の激しいところであることから走水の海(はしりみずのうみ)と呼ばれた難所です。

ところが海路を行く途中で嵐に遭ってしまう。
そこでヤマトタケルノミコトの妻(出雲風土記には皇后と書かれています)の弟橘比売命が、海神を鎮めるために入水自殺しました。
海は夫を想う妻の気持ちが海神に通じて、時化(しけ)がやみました。
そしてヤマトタケルノミコトの一行は無事に海を渡ることができました。

弟橘比売命は、身を挺して夫を扶(たす)けたのです。
このとき、弟橘比売命が入水する直前に詠んだ歌が、冒頭の歌です。
弟橘比売命は、いままさに海に飛び込もうとするときに、その身を投げることには何も言わず、
「あの相武の小野(焼津)で燃えさかる炎の中で、その炎で自分が焼け死んでしまうかもしれないというのに、そのことよりも私の安否を気遣ってくれたあなた・・・・」と詠んだのです。


ちなみに歌にある「さねさし」は、枕詞で意味がないと多くの解説書にありますが、「さね」というのは、古語では「突起」のことをいいます。
「さし」は、「砂嘴(さし)」とか「指し、差し」などと書かれるように、細長く突き出たものをいいます。
であれば「さねさし」は、細長く突き出た「岬」のようなものを意味することは明らかです。
ですから「さねさし相武の小野」は、相武国(駿河の国)の長い突き出た岬にある小野(焼津の岬の野原)という意味になります。

また「相武」は、「相模」と書かれているものが多いのですが、古事記の原文では「佐賀牟能」となっています。
読みはどうみても「さがむの」なので、「相模」ではなく、「相武」と書く方が正しいのではないかと私は思っています。(冒頭の歌も、そのように表記させていただきました)

ちなみに、このとき入水された弟橘比売命の袖が流れ着いたというのが千葉県の「袖ケ浦」、弟橘比売命を忘れられないヤマトタケルノミコトが、足柄で「吾妻はや(わがつまはや)」と嘆いたことが、東国を「あずま」と呼ぶ縁起とされています。

さて実は、というかここが大事なポイントなのですが、この歌にまつわる故事は、日本書紀には書かれていません。古事記にだけある神話です。
前にも申し上げましたが、古事記はいわば「秘伝」、日本書紀は「公開の史書」です。
「秘伝」は、ある一定のレベルに達した者にしか見せない「秘伝中の秘伝の教え」とするものです。
ですからこの「弟橘比売命とその歌にまつわる物語」が古事記にしか掲載されていないということは、そこに重大な「教え」があるということになります。

実は古事記には、弟橘比売命が入水するとき、「菅疊八重・皮疊八重・絹疊八重を波の上に敷きて、その上に下りましき」という記載があります。
嵐で海に揉まれている最中に、海の上に、菅(すげ)の畳を8畳分、皮を8畳分、絹を8畳分敷いて、その上に降り給いて、この歌を詠み、そして海に消えたとあるのです。

このことから学べることは、どんな緊急時にあっても(海の上で嵐に遭って波間に揉まれているのですから、まさに緊急時、非常事態です)、祭事をきちんと行い(菅疊八重・皮疊八重・絹疊八重を波の上に敷きて)、そして、いかなる場合においても、相手が示してくれた恩義(焼津で自分を気遣ってくれた)を忘れずに、感謝の心をもって、嵐のような強大な敵に、たとえ命を犠牲にしてでも、男女ともに立ち向かいなさい、という教えであろうかと思います。

男女ともにとか、強大な敵に立ち向かうとか、非常に厳しい教えであり、心得であるがゆえに、あえて公開文書である日本書紀には記載せず、秘伝の古事記にのみ、これを記載したということではないかと思います。
そしてこれが私たちの国、日本の、天皇の統治の根底にあるということを、私たち日本人は、わきまえる必要があろうかと思います。

国難と呼べるような非常事態は、常に私たちの身に降り掛かります。
けれど、どんな緊急時にあっても、我が命を失うことがあっても、報恩感謝の心を失わず、祭事を大切にして、まっすぐに生きて行く。
そして生残った者は、亡くなり、命を捧げて犠牲になった人の心をいつまでも決して忘れない。
それが日本人だということです。

お亡くなりになって御柱となられた方々への感謝の心と祭祀を失わないという日本人の魂の歴史は、なんとヤマトタケルノミコトの時代から綿々と続いていた、わたしたち日本人の根底にある心です。
いいかえれば、「それがあるのが日本人」です。

戦後69年目を迎えました。
戦災で亡くなった方、戦地で命を失われた方々の命の上に、いまの私たちの命と生活があります。
そのことに思いをいたさずに、いつまでも日本人は、やれ戦犯だとか犬死にだとか、どっかの人道をわきまえない阿呆の外国人が言い出したことを鵜呑みにしていてはいけないと思います。

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コメント

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海行かばということですね

通りすがりの武人

No title
天は正しく生きようとする日本人を常に温かく見守っておられる・・しかし他力本願で身を守ることは不可能です。日本人だけなら問題はありませんが我が国は史上最悪の野蛮国と隣接し、その脅威にさらされているのです。しのごの言ってないで鍛えましよう!!

Alinamin2011

日本人でよかった
〉「それがあるのが日本人」です。
そう思います。
こういう、「日本人とは何か」を強く意識することこそが、「日本が日本であることの意義」を強く考えさせてくれると思います。
ありがとうございました。

軍人の娘

No title
今回のお話を読んで、1992年の山形で行われた国体開会式の皇后陛下をおもいだしました。
天皇陛下がお言葉を述べられる中、過激派が発炎筒のようなものを投げつける事がありましたが、皇后陛下は男の異変にすぐに気付き、さっと手を天皇陛下の前へ差し出し、身を挺してお守りした姿です。

皇后陛下は、天皇陛下がお言葉を述べる間、いつも優しいお顔で陛下に顔をむけていらっしゃいますが、
その一方で、常に周りを見ていらっしゃって、陛下に万が一のことがないよう、誰よりも気を配られていると、そのとき衝撃を受けました。

皇后陛下は弟橘比売命そのものですね。

一読者

No title
「どんな緊急時にあっても、我が命を失うことがあっても、報恩感謝の心を失わず、祭事を大切にして、まっすぐに生きて行く。そして生残った者は、亡くなり、命を捧げて犠牲になった人の心をいつまでも決して忘れない。」
天災に遭っても混乱することなくルールを守り、慰霊碑を立てて亡くなった方のことは忘れない。日本にはその精神がしっかり残っているんですね。
しかし、こうした価値観を持たない外国人の増加と、戦後教育で経糸を切られた日本人が増えていることを考えると、そう安心してはいられません。
安倍首相が再登板され、反日勢力には明らかな焦り(発狂も)が見られます。今こそ一般の日本人が立ち上がる時ですね。本当にねずさんがいつも言われている通りです。頑張らねば!
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ねずさんのプロフィール

小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年生まれ。浜松市出身。上場信販会社を経て執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。またインターネット・ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。「歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに」という理念を掲げ活動する。古事記・日本書紀・万葉集などの原文を丁寧に読み解き、誰にでも納得できる日本論を発信。

《著書》日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、その他執筆多数。

《動画》「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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