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【おわりに】
ある元高校教師の話です。
彼は東大で日本文学(中世古典文学)を専攻し、社会人を経験してから高校 教師になりました。
彼は日本の古典文学にある美しい言葉が大好きで、たくさんの和歌を暗唱できました。
そして、大変な熱意をもって子供たちに古典の授業をしましたが、子供たちはまったく反応しません。
和歌がどんなに素晴らしいか、どれほど美しいか、教えれば教えるほど子供たちの心が古典から離れていっ てしまうのが、授業をしていて肌で感じられるのです。
子供たちから疎まれていることを感じた彼は、教職に幻滅を感じて学校を辞め、進学塾の講師となりました。
進学塾では、味わいとか感動とかはまったく関係ありません。
ただ文法と表面的な意味を教えるだけです。
古典文学は学生時代からの専門ですから、そこではまさに知識と経験が如何なく発揮され、彼は評判の良い塾講師として経済的にも成功しました。
しかし彼は、高校教師時代に古典の面白さを子供たちにうまく伝えられなかったことが、ずっと心残りでした。
そこで大好きだった「百人一首」の解説本を出版しました。
専門中の専門ですし、もともと頭の良い人です。
彼は本の内容に自信満々でした。
その本の例として、四十九番の大中臣能宣朝臣(おおなかとみのよしのぶあそん)の歌を見てみます。
御垣守
衛士のたく火の
夜は燃え
昼は消えつつ
ものをこそ思へ
詳しい解説は、本文この本の該当ページに譲りますが、歌にある「御垣守」は、今でいうなら皇居勤労奉仕のことで、昔は勤労奉仕団の中から健康な男たちが衛士として門番をしました。
彼らは雪の日も風の日も門前で微動だにせず立っていました。
その伝統は今の皇宮警察に引き継がれています。
全国から集った人たちですが、交通費も宿泊費も食事も全部自腹です。
そして日程消化後は、次にやって来きた人たちに引き継いで交替するので、歌には「つつ」と書かれています。
その衛士たちのことを、神祇大副でもあった大中臣能宣が、
「俺たちもしっかりと民のためにお勤めを果たしていこうじゃないか」と詠んだのが、この四十九番歌なのです。
ところがこの歌について、彼の書いた本では、
「衛士たちの焚く火が、夜は燃え、昼は消えるように、私も夜は恋の炎に身を焦がし、昼は火が消えて抜け殻のようになることを繰り返し、どうにもならない物思いに悩むしかないと、正直に恋に苦しむ心中を吐露したです。平安時代の貴族の恋心は複雑だったのですね」と解説しています。
この解説を読めば、恋心が夜燃えるはまだ分かるとしても、どうして昼間は恋心が消えなければならないのかと突っ込みを入れたくなります。
子供たちの心は素直です。
具体的にどこがおかしいのか分からなくても、「何かおかしい」と素直な心 で直観します。
次々と紹介される歌の解釈がおかしなものばかりであれば、子供たちの心が離れてしまうのは当然です。
これまでに「百人一首」を学ばれた方は、本書の解説が類例を見ないこと、そして「百人一首」が、百首で一首の一大抒情詩(じょじょうし)だという解釈に、おそらく驚かれたことと思います。
けれど、読めば読むほど、 調べれば調べるほど、それ以外に解釈のしようがないのです。
日本は、世界で一番歴史の古い国です。
世界史に登場する幾多の国々の栄枯盛衰を俯瞰すれば、有史以前から現代まで続いている国など、まさに奇跡以外の何ものでもありません。
はるか遠い昔から日本は、天皇を最高権威とし、政治は天皇から任命された施政者が執り行ってきました。
そして「民こそ宝」という理念を根本とした治世を、長きにわたり築き上げてきたのです。
ですから日本の歴史や古典文学を考えるとき、天皇の存在を抜きにしては、その解釈を大きく間違えます。
「百人一首」は、晩年の藤原定家が、良き時代の精神を後世に残そうと、百人の歌人とその歌を使って、 天皇と貴族が統治した約五百年間をひとつの抒情詩にしたものです。
個々の歌をとおして、当時の人々がどのような社会や人間関係の中で生き、何を感じ何を思い、どんな行動をとってきたのかを知ることがで きます。
そして「百人一首」全体をとおしてみれば、日本がいかに平和で対等な社会であったか、天皇が いかにありがたい存在であるかが分かってくるのです。
それだけに「百人一首」を一番歌から順番に紐解くと、日本とは何か、日本人とは何か、日本精神とは何かがはっきりとした形をもって理解できるようになります。
本文中において、便宜上「名歌」という言葉を使いました。しかし「百人一首」に撰入されている和歌は、必ずしもその歌人の代表歌ばかりではありません。なかには当時は無名だった歌人の歌が選ばれたり、逆に有名な歌人が選から漏れたりしています。
それは、藤原定家が、ある一定の目的のために撰歌、配列を行っているためです。
例えば和泉式部の解説のところで少し書いていますが、和泉式部が生涯に詠んだ数々の歌のなかには、 まるで水滴が空中に留まっているかのような奇跡的な名歌が存在します。
けれど藤原定家は「あらざらむ」の歌を五十六番に採用しました。
「百人一首」の編纂意図を優先して歌を選んでいるからです。
この歌は、 和泉式部の生涯を総括する歌であることに加え、「百人一首」の中盤において女性たちが本当に輝いた時 代を象徴する歌の一首として撰入されています。
「百人一首」を学ぶと日本が分かります。
それは日本という国柄が分かるというだけでなく、たとえば職場や組織において必要な心構えや、人生に迷ったときや悩んだときに進むべき方向性など、かなり具体的 な解決策が見えてくるのです。
千年前の歌人たちが、「いかに生きるべきか」という人生の大命題にどの ような答えを見出していったかを知ることで、日本人としての在り方までをも、学ぶことができるものです。
イジメ被害に遭っている人なら、同じくイジメにあいながらそれを見事に克服した小式部内侍、複雑な 人間関係の渦巻く組織のなかで、五十年以上も見事に生き抜いた周防内侍、夫の浮気を克服した相模、たった一首の歌で長年続いた伝統と利権の巣窟を破壊した小野 篁 、歴史に残る重大な決断をしながら自分功績として一切誇ることなく、すべては神々の御心のままにとした菅原道真公など、まさに歴史に残る魅 力的な歌人たちの生き様や人生を、私たちはたった百首の歌を通じて学び取ることができるのです。
「はじめに」でも触れましたが、「百人一首」が示した本来あるべき日本の姿を現実のものとするため、 戦国武将たちは、あえて「京」を目指したのです。
それにより、混迷する戦国時代は終わりを迎えました。
日本的価値観が失われ世の中が混迷したとき、「百人一首」はまさに不死鳥のように本来の姿を現して、 私たち日本人の進むべき道を指し示してくれるのかもしれません。
この本が皆さんの座右の書となり、今を生き、未来を開く手がかりとなれば、著者としてこれに勝る喜びはありません。
平成二十七年春
遠くに雪の富士山がはっきり見える澄んだ日
小名木善行
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『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』
http://goo.gl/WicWUi</u>">
http://goo.gl/WicWUi《内容のご紹介》
1 内容紹介
「戦国大名はなぜ京を目指したのか?」その答えは百人一首のなかにあります。
これまでに「百人一首」を学ばれた方は、本書の解説が類例を見ないこと、そして「百人一首」が、百首で一首の抒情詩だという説に、おそらく驚かれたことと思います。けれど、読めば読むほど、調べれば調べるほど、それ以外に解釈のしようがないのです。
2 著者講演会での感想文より
○涙が出てくる「百人一首」の解説は初めてです。やはり千年前も日本人は日本人なのだと思いました。
○補助線1本で、幾何の難問が簡単に解けるように、長年の疑問がものの見事に氷解していきました。
○45分の古典の授業は寝てしまいましたが、90分の小名木先生の講演は興奮と感動でアッという間でした。
○和歌は日本文化の原点ということが本当によく分かりました。この本は「日本人の魂の書」になると思う。
○子供たちに文法や知識を教える前に、日本の心を教えないといけない、反省とともにそう強く感じました。
○恋をして、涙を流して、なよなよと……そんな平安貴族のイメージが吹っ飛んだ!
○和歌の概念がひっくり返るほどのインパクトです。史実に裏打ちされた解釈に反論の言葉もありません。
○「百人一首」に初めて血の通った人間を感じて、感動の涙をこらえるのに必死でした。
○文法的な解釈よりも、時代背景を知り、歌人の立場で考えることが、いかに大切かを教わりました。
○話の内容にビックリ! そして、今までこんなスゴイ解釈がなかったことに、もっとビックリ!!
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コメント
渡辺
ありがとうございました。
次は『ねず本』第四巻、心待ちにしております。ちなみに私も来週伊勢にお参りいたします。初めての参拝なのですが、ねず先生の奉納のお話で楽しみが増えました。
2015/04/25 URL 編集
くすのきのこ
うたをどう読むか?これは人様々ではないでしょうか?
衛士のたく火・・これが夜燃やし昼消すのは、まあ・・普通ですね。
朝臣さんは、日の光の満ちるような平和な時期はよいが、不穏で何が起こる
かわからない暗い闇の時代には、国を守るために燃える心で辺りを照らさね
ばと。みなさん、よ~く考えて見極めましょう。危ない時代だよ・・・みた
いなね。まさに、ねずさんと朝臣さんの言葉は重なっているようですね。
また、あげておられるセンセイの話ですが、百人一首を恋の歌集として見な
ければ~~と必死になっているよ~な、そうでないよ~なww
教え方がヘタだったんでしょうね。思春期の子供たちに、雅を圧しつけたか
も?キミらにも守りたい大事なものがあるだろう?それがゲームのスコアで
あったり、秘密にもっているエロい本であったり・・夜はそういうものに、
まあ・・燃えてもいいが、昼間はキチンとその火を消して授業に専心しなさ
~い。夜にあそびすぎて眠そうな抜け殻状態はどうよ!・・もまた一つの解
かもしれません。www思春期の子供の扱いは難しい。
うたは作り手の思惟がどうであれ、受け手によって理解が異なっても構わな
いのでは?そして百人一首は編者の意図が隠されており、それを探るのが乙
なのでしょう。
2015/04/22 URL 編集
ネコ太郎
公家の凋落、世の中の荒廃の中で天皇の治世(しらしおさめる)の重要性を日本文化の神髄である和歌で伝えようとしたのが百人一首だったんですね。
現在でも通用することがわかりました。
2015/04/22 URL 編集
カブ
日本が好きで好きでたまりません。
今は、日本に来て私を生んでくれた父親に感謝しています。
しかし、自衛官としての自分は日本人ではありませんでした。
入隊時、中学の先生に色々言われ悩みました。
入隊後自分なりに頑張り操縦士として日本の防人として日々命をかけて
飛んでいました。
残念ながら、飛べば飛ぶ程疑問にぶつかり遂に退職してしまいました。
今は、中学の先生を恨む気持ちは有りません。
自分の勉強不足を恥じるだけです。
なぜ父親が、日本人になったのか今は理解できます。
そして今、この本に出会い日本人としての誇りを得ました。
ありがとうございます。
2015/04/22 URL 編集
-
若(和歌)返る。失礼しました。
2015/04/21 URL 編集
とおりすがり
ですから文章にすると、
사람이 있어요. サラミ イッソヨ (人がいます)
물건이 있어요. ムルゴニ イッソヨ (物があります)
というふうに同じ動詞を使います。
否定形の「いない」「ない」の場合は「없다 オッタ」を使います。
사람이 없어요. サラミ オプソヨ (人がいません)
물건이 없어요. ムルゴニ オプソヨ (物がありません)
なお、名詞の否定形「~ではない」という場合は、
~가 / 이 아니다 ~ガ/イ アニダ になります。文章にすると、
사람이 아니에요. サラミ アニエヨ (人ではないです)
가수가 아니에요. カスガ アニエヨ (歌手ではないです)
つまり、韓国人の言語世界では物と生き物との区別を意識していないのです。
時として韓国人が非常に残虐になったり、或いは呪術的になったりするのは、この未分化の言語世界に原因があるような気がしてなりません。
2015/04/21 URL 編集
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昨日の朝一に、すごくいいタイミングで百人一首の御本が届きました!
ねずさん自身の「三社奉納の旅」さながらのタイミング♪さすがですね!
一文字一文字、大切に読ませていただきます。
日本と日本人のご先祖様方のために、いつも本当にありがとうございます。
2015/04/21 URL 編集
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五七五七七の和歌を初めて詠まれたのは、
スサノオの尊さまだそうです。高天原を濡れ衣の罪で追われて、一切の弁解もせずに流浪の旅に出られたスサノオ尊さまは、出雲で生涯の伴侶である櫛稲田姫さまと結ばれた事を祝って詠んだ歌が、和歌の始まりだと最近知りました。五七五七七の韻律は、スサノオさまが定められた韻律なので、和歌を詠む事は、古来より邪気祓いであり、日本を平和に治める神事として伝えられているのですね。
2015/04/21 URL 編集
あい
私は小学生の頃、国語の授業で百人一首に初めてふれたとき、和歌って凄くきれいな言葉だなと感動しました。
こんなにきれいなんだから、きっと歌の意味もすごいに違いないと思い解説本を探すも、少しも感動しない解釈ばかり。
その後、なんて素敵にジャパネスクという漫画の中に、この歌は裏読みするとこんな意味になど書いてあり、現代語訳版しか載ってないんだなと勝手に解釈し本当の百人一首について書いてある本を探していました。
ねずさんが百人一首について解説を始めてくださったときからずっと本になるのを待っていました。
私がずっと読みたかった本が、やっと手に入りました。
ねずさん、この本を出版してくださって、百人一首のことを教えてくださって本当にありがとうございます。
2015/04/21 URL 編集
lilien
81才の母にも購入しました。毎日素晴らしいお話を読ませていただき心より感謝しています。ねず先生の雄々しく、優しく、上品で、深い愛溢れた語り口が、大好きです。ありがとうございます。
2015/04/21 URL 編集
heguri
田辺聖子さんの上下巻物を所蔵していますが、全く違います。
それはそれで面白かったんです。挿絵も綺麗で妖艶で見ても楽しい
本ですが、ねずさんのブログのシリーズを読ませていただいてから
比較をしましたら、解説の内容が頭の中で映像にならない事に気づきました。ねずさんのシリーズでは必ず頭の中で映像に出来たんです。
この違いはなんだろう?
今日から少しづつ楽しみながら読ませていただきます。
ありがとうございます。
2015/04/21 URL 編集
-
ありがとうございます。
2015/04/21 URL 編集
hiyo
2015/04/21 URL 編集
ケイシ
ねず先生の百人一首のご本を昨日から少しずつ読ませて頂いています。百人一首の和歌を声に出して復唱してから解説を読むと、胸に染み渡ります。和歌は、言霊として生きていると実感できます。
2015/04/21 URL 編集
junn
http://torakagenotes.blog91.fc2.com/blog-entry-2191.html
2015/04/21 URL 編集
みきりん
学校等で習うことがなかった「日本のこころ」を、毎日少しずつ楽しみながら吸収していきたいと思います。
2015/04/21 URL 編集