天の香具山と持統天皇

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20150823 夏の空


猛暑の続いた8月も、ようやくすこし落ち着いてきました。
それにしても今年の夏は暑かったです。
冷たい水や、かき氷に、のどをうるわせたり、あるいは、プールや海水浴を楽しまれた方も多いかと思います。

冬は寒いのに、夏は本当に暑い。
夏には、ほんとうに、冷たい水が心地よいものです。
そんな夏の日のヒトコマを詠んだ歌が百人一首にあります。
それが二番にある持統天皇の御製です。

 春過ぎて
 夏来にけらし
 白妙の
 衣干すてふ
 天の香具山
(はるすぎて なつきにけらし しろたえの
 ころもほすちょう あめのかぐやま)

いまでは洗濯といえば全自動洗濯機を使って室内で洗うものですけれど、まだ電気もなかった時代、洗濯はもっぱら川で行っていたものです。
寝殿作りの貴族の館や、宮中などの場合、敷地の中に川の水をひいて小川とし、そこに木樹を植えて鑑賞を楽しむとともに、その小川で洗濯などが行われていました。

小川で洗濯をするのは、もっぱら女性たちの役割です。
そんな女性たちにとって、冬の小川は、水が冷たいし、氷も張るし、手にはしもやけや、あかぎれができるし、手が荒れるし、だから冬のお洗濯は、とってもつらいものでした。

けれど、季節はめぐり、春がやってくる。
雪は溶け、氷もきえ、春のうららかな日差しのもと、だんだんお洗濯の川の水が気持ちよいものにかわっていきます。
そして夏になると・・・・。

真夏の陽光のもと、川べりで行う洗濯は、むしろ冷たい水が、ほんとう心地よい。
お洗濯は、朝食の後の時間帯の午前中に行ないます。
女たちみんなで、わいわいとおしゃべりしながら、小川まで洗濯物を運び、ひとつひとつの洗濯物を洗濯板にこすりつけたり、冷たい水の中に入れて、足で踏んだりして洗濯をしていました。

夏の洗濯は、女達にとって、おしゃべりも、冷たい水も、とっても心地よい。
だから、お洗濯についつい力がはいってしまって、気がついたら、ほら、こんなに洗濯物が真っ白になっちゃてる。

洗い上がった洗濯物は、みんなで物干しに運んで、つるします。
干した洗濯物は、ほら、真っ白です。
その真っ白な洗濯物が、ほら、まるで蝶々のように、風に舞っています。
気持ちの良い朝。
見上げれば、ほら、あんなに空が青くて、あそこには、ほら、真っ白な夏雲がぽっかり浮かんでる。

そんな物干し場に群がる女性たちの中に、持統天皇のお姿もありました。
見ると、宮中から一望できる大和三山が、陽光を浴びて、今日はくっきりとその姿を見せています。
なかでも香具山は、その3つの山のなかでも、いちばん立派な山です。
持統天皇の目には、そんな香具山が、まるで先日お亡くなりになった夫の天武天皇に見えました。

「あなた。私達、今日もこうしてがんばってるわよ」
楽しかった夫との思い出が、まぶたの中に浮かびます。
それはまるで、夫が香具山になって、ニッコリと微笑みかけてくれているようでした。

そんな光景が、
 春過ぎて夏来にけらし白妙の
 衣干すてふ 天の香具山
という、たった31文字の歌の中に込められています。

香具山自体は、ただの山です。
その香具山を持統天皇は「天の香具山」と詠んでいます。
なぜ、ただの山にすぎない香具山が、どうして「天の(あめの)」香具山なのか。
あるいは「てふ(チョウチョ)」のように風に舞う「白妙の衣」とは何か。
どうしてわざわざ「春が過ぎて、夏がやってきたよ」と初句で詠んでいるのか。

そんな素朴な疑問を感じて歌を読み込んで行ったら、自然と、歌の意味の深さがわかり、この歌がご夫婦の愛の歌、夫を愛う(おもふ)妻の歌であることが自然と見えてきます。

また、持統天皇は女性の天皇ですが、なぜ「春過ぎて夏来にけらし」なのかを考えて読んでいったら、冬の水は冷たくて、洗濯がとてもつらいこと、夏にはその同じ水が、こんどは冷たくて気持ち良いことなどが、自然に見えてきます。
そして、そんな水の冷たさや、その辛さや気持ちよさがわかるのは、持統天皇が、御自ら、他の女官たちと一緒にご自分でお洗濯をなされているということまで、歌のなかから見えてくるのではないでしょうか。

天皇というのは、我が国最高の地位におわす御存在です。
そして持統天皇といえば、我が国で最初に「日本」という国号を、世界に向けて発信された天皇であり、また「愛国」という言葉を世に残した天皇でもあります。
そして天皇であれば、これは今上陛下も同じですけれど、年間二千件を超えるご公務があり、日々、いっときも気の抜けない祭事をこなされている方でもあります。

没後に「貞信公」の諡(おくりな)を贈られた関白太政大臣藤原忠平は、
 小倉山 峰の紅葉葉 心あらば
 いまひとたびの みゆき待たなむ
 (百人一首26番)
という歌を残していますが、この歌は、天皇の地位を退いた宇多上皇が紅葉見物に行かれた歳、そのあまりに見事な紅葉にいたく感動されたときに、詠まれた歌です。
宇多上皇は、子の醍醐天皇に、ぜひともこの見事な紅葉を見せてあげたい、と願う。
けれど、天皇の地位にあれば、日々のご公務のために、紅葉見物など、行きたくてもいけないのです。

そこで藤原忠平は、宇多上皇ともはかり、天皇の行幸の際には、ご公務の方が天皇のあとを追いかけてくる、というカタチをつくりました。
いまでも、東日本大震災の被災者のもとを天皇皇后両陛下がお見舞いに行かれたりされますが、このときは、ご公務(たとえば新たな法制の承認)などの方が、陛下のあとを追いかけてきて、陛下の承認を得ることになっています。
そんな制度ができたのが、実は第60代の醍醐天皇の時代のことです。

持統天皇は、第41代の天皇ですから、醍醐天皇のご治世よりも、二百年も前の天皇です。
その時代に、持統天皇は、まさにお忙しいご公務の間を縫って、ご自分のお洗濯物を、なんとご自分でお洗濯なさっていたわけです。
お忙しいのに、よく、そんな時間がとれたものだという感心もあります。
けれど、それ以上に、世界の歴史を振り返ったときに、世界中に皇帝、王、領主など、様々な呼び方はあれ、それこそ何千人、何万人という偉い人はいたけれど、ご自身の手で冬の冷たい水でお洗濯をされていた、そのような御存在を、私達は歴史を通じて天皇に仰いでいるわけです。

持統天皇のこの御製は、夫婦の愛の讃歌でもあります。
妻が夫を想い、夫が妻を想う。
その「おもふ」を、昔の人は漢字で「愛ふ(おもふ)」と書きました。
愛は「いとし」とも読みますが、日本人にとって、愛とは、相手を「いとしくおもふ」ことです。
そんな素晴らしさが、たった31文字の中に詠み込まれている。
素晴らしい歌だと思います。

百人一首の中には、天皇の御存在のありがたさ、おおみたからとされることのありがたさ、そこから生まれる対等感、そして察する文化、縄文時代から2万年以上も続く古くて長い歴史のある国、日本の素晴らしさのすべてが、百人の歌人の百首の歌で紹介されています。

日本を取り戻すということは、日本の国体を取り戻すということです。
百人一首は、定家が本来の日本の国体を取り戻したいという強い情熱と信念に基づいて作成しながら、およそ230年間、定家の死とともに、埋もれていたものです。
ところが応仁の乱のあと、日本人の価値観がほぼ完全崩壊したかに思われた時代に、まさに不死鳥のように蘇り、日本の国体を取り戻す原因のひとつを担っています。
価値観の崩壊した今の日本があるべき国体を取り戻すのに、まさに不可欠の書です。
そこには、日本の心のすべてが詰まっています。

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やまと新聞 小名木善行の「百人一首」 第22番 文屋康秀




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コメント

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No title
天の香具山=高天原に通じる山と言われてるので只の山ではないですよ

むってぃ

はじめまして。
注目記事のところにこちらの記事があったので覗かせていただきました。

香久山は私の地元で、百人一首にも詠まれていることも知っていたのですが、あの一句だけでこれだけの意味が込められていたのは知りませんでした。
ねずさんの記事でとても勉強になりました、ありがとうございます(´ω`)

白茶ネコ

新渡戸記念館
新渡戸記念館の件で6月22日にもメールをお送りした者です。昨日の”駆け出し鬼女”さんのブログでまたこのことが出ていたものですから、再度青森・十和田市に電話致しました。観光推進課オオタさんという方が話して下さったのですが、電気・水道などは止まっていないので空調も止まっていずカビの問題はない、資料や所蔵品はタカモリ山のショートクカンに移す予定なのでそちらも大丈夫だとのことでした。空調が動いていると聞いて一安心しましたし、私の方があまり時間がなかった為にこれしかお聞きできませんでした。私は、ただ心配している、とだけ十和田市の職員の方に申しました。廃館にすると一方的に告げられたこと、耐震性の問題については新渡戸さんの側は納得出来ないでしょう。韓国人が日本の宝を壊したり汚したりしているのを見聞きしているので、十和田市長の周辺の闇と韓国との関係が気になります。突然出てきた新渡戸記念館廃館のこの問題も決してこのままにしておくことは出来ないと感じます。他に私のような者でも何かできないものでしょうか。ねずさんからはいつも貴重なお話を教えて頂き感謝しています。

めかなつ

百人一首の本、読んでます!
毎日のようにお邪魔しては、ねずさんの記事を拝見して
勉強させて頂いています。
今回の持統天皇の句、ねずさんの百人一首本を読んで、
感銘を受けたところでした。自らも働いて、国民と共に
あられた代々の天皇陛下。そして天皇陛下をあがめ、一丸と
なって生きてきた日本人。ねずさんの解釈に心ふるえる思い
です。
もう一冊、「昔も今も」シリーズの1も、一緒に購入して、
夜寝る前に子供達に読み聞かせています。内容は子供達には
少し難しくて、あっという間に寝てしまいますが(笑)、
それでも所々、気になる所、しかも結構聴いていてほしい
ところにひっかかってくれて、質問してくるので、ちゃんと
イメージしながら、理解しながら聴いているのだと感じます。
そこで、一つ思いつきなのですが、読み聞かせで使えるような
子供版の「すごいぞ日本人」シリーズなんてあったら、図書館に
リクエストしたり、意識の高い親御さんが購入して読み聞かせ
したりできるんじゃないかな?と思って。簡単に大変なことを
言ってるのは百も承知なのですが^^;参考までに・・・。
これからもねずさんのご活躍、期待しています。どうぞお体には
御自愛ください。

aya

ねずさんとふたりごと
日本のために、日々の活動ありがとうございます。
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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: nezu3344@gmail.com
電話:080-4358-3739
出身:静岡県浜松市
住所:千葉県野田市
執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」、「百人一首塾」を運営。
またインターネット上でブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。他に「ねずさんのメールマガジン」を発行している。
動画では、CGSで「ねずさんのふたりごと」や「Hirameki.TV」に出演して「明治150年真の日本の姿」、「日本と台湾の絆」、「奇跡の将軍樋口季一郎」、「南京事件は4度あった」、などを発表し、またDVDでは「ねずさんの目からウロコの日本の歴史」、「正しい歴史に学ぶすばらしい国日本」などが発売配布されている。
小名木善行事務所 所長
倭塾 塾長。
日本の心を伝える会代表
日本史検定講座講師&教務。
《著書》
『ねずさんの昔も今もすごいぞ日本人』
『ねずさんの 昔も今もすごいぞ日本人!和と結いの心と対等意識』
『ねずさんの 昔も今もすごいぞ日本人!日本はなぜ戦ったのか』
『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』日本図書館協会推薦
『ねずさんと語る古事記 壱〜序文、創生の神々、伊耶那岐と伊耶那美』
『ねずさんと語る古事記・弐〜天照大御神と須佐之男命、八俣遠呂智、大国主神』
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