明治天皇替え玉説を否定する



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「明治天皇替え玉説」というのが最近流行っているのだそうです。
それは我が国における天皇の位置を、諸外国の王や皇帝と同一視した、とんでも説と申し上げさせていただきます。
そのようなことをおっしゃられる方は、はっきり申し上げて、日本の天皇の意義をまったくわかってらっしゃらない。
我が国では、替え玉などまったく必要ないし、まして幕末頃というのは、いまよりもはるかに国学に基づく皇国観が浸透していた時代です。
ですから替え玉は、「ありえない」のではく、「必要がない」のです。


20170921 孝明天皇
(画像はクリックすると、お借りした当該画像の元ページに飛ぶようにしています)



「明治天皇替え玉説」というものがあります。
「明治天皇は開国に踏み切ったけれど、その父の孝明天皇は攘夷派だった。
 父が攘夷派なのに、子の明治天皇が開国したのはおかしい。
 だから明治天皇は替え玉だ」
というのが、その説の根拠です。

私からすると、「わかってないなあ」と思います。

なぜなら、替え玉など、日本においてはまったくその必要がないからです。
天皇は、国家最高の権威です。
開国するのか攘夷するのかは、政治上の意思決定です。
つまりそれは、天皇の下にある政治上の意思決定件者が行うことです。
天皇は、これを承認するだけです。

幕末当時の国内世論は、開国か攘夷かで、真っ二つに割れていました。
朝廷内にあっても、それは同じです。
ですからその時々で、開国派が朝廷の要職にあれば、朝廷の意向は開国になるし、反対なら攘夷になります。
それだけのことです。

天皇は、決まったことを承認するお立場です。
天皇が決められるのではありません。


あたりまえのことですが、決めるということは、責任を伴います。
そして政治上の意思決定は、そこに必ず利害得喪が生じます。
早い話、病院を築けば多くの苦しむ人を救うことができますが、一方で病院用地のために土地を失う人も出るわけです。
民を「おほみたから」とするお立場の天皇が、そうした責任の一切を負うのでは、天皇の御存在そのものが失われかねません。

ですからこれを防ぐために、はるか上古の昔の神話の時代に考え出された仕組みが、国家最高権威と国家最高権力を分けるという、我が国独自の統治スタイルです。
これがシラスの統治の形です。

古事記では、これが天照大御神が天の石戸にお隠れになられたところで出てきます。
須佐之男(スサノヲ)が高天原にやってきたときに、天照大御神が須佐之男命と直接対決されます。
その結果天照大御神は、責任をとって天の石屋戸にお隠れになります。

ところが天照大御神は、太陽です。
隠れてしまって困るのはみんなです。
そのことを古事記は、「高天原だけでなく、中つ国もみな闇に閉ざされた」と描写しています。

そこで八百万の神々が立ち上がるのです。
そして政治責任を伴う政治的意思決定については、八百万の神々が自分たちで責任をもってこれにあたることにしたのです。
これが我が国初の国会であり、かつ、天皇が政治的意思決定者ではなく、神々が責任をもった意思決定を行うことの事始めです。
このときに初まった権威と権力を立て分けるという国家統治の形こそ、我が国の統治の根幹です。

神話に基づくというのが不服なら、天智天皇から持統天皇に続く飛鳥時代に確立された統治もまた同じです。
天智天皇の時代に公地公民と、そのレールが敷かれ、その子の持統天皇の時代に、これが制度として確立しています。
それまで、皇位継承者をめぐり、様々な思惑がからみ、優秀だとされた大友皇子や大津皇子が不遇のうちに処刑されるという事態もあったわけです。

同じことが三度繰り返されてはならないという、持統天皇の強い意思によって、皇位継承者は血筋によって初めから定められた者がなることとされ、さらに天皇は神々と繋がる祭祀を行うお役目、政治的意思決定は、政治の組織が行うと定められています。
そしてこれ以降、歴代天皇は、政治的な意思決定を行わない。
もしどうしてもその必要があるときは、天皇位をご譲位されて、太上天皇となってこれを行うとされたのです。
我が国における太上天皇(上皇)の、その最初のひとりが、まさに持統天皇です。

「そんなことはない。昭和天皇は終戦の御聖断を下されたではないか」という方もおいでになるかもしれません。
そうではなくて、「だから御聖断」なのです。
終戦を決めるとき、政府の見解は二分して、まったく意思決定ができない情況となりました。
だから時の鈴木貫太郎内閣は陛下に御聖断を求めたのです。
このことが戦後、明確に語られないのは、それが国家の非常大権を意味するからです。

国の交戦権は、実は憲法を越えます。
「人を殺してはならない」は法ですが、襲撃されて防御するのは正当防衛です。
これと同じで国家の非常時に実力を行使することは、法や憲法の枠組みを越えた国家非常大権です。
早い話、米国は、度々戦争を行っている国ですが、合衆国憲法に、「このような場合に戦争を行う」あるいは「このような場合には戦争を行ってはならない」などの条文はありません。
ないのになぜ戦争ができるかといえば、それは国家非常大権が大統領にあるからです。

我が国の終戦の御聖断は、この裏返しで、原爆使用によって、すでに日米戦争は国家間のいわば良識を持った戦争が、国際法をも無視した場外乱闘の様相を呈したことに憂慮された天皇が、揺れる政権の求めに応じて御聖断を下されたというものです。
非常時だから、天皇の非常大権が行使されたのです。
もし平時に陛下が御聖断を下されれば、その時点で反対派は粛清の対象になります。
それほどまでに御聖断というのは重いものなのです。

お隣のChinaでは、国家のトップは皇帝です。
そして皇帝はすべての政治権力と国家の最高権威を独占します。
独占するから、意思決定に齟齬が生じ、この傾きが大きくなってくると、皇帝そのものが打倒されて、別な血筋の皇帝を立てざるを得なくなります。
そしてその都度起こる戦乱によって犠牲になるのは国民です。

持統天皇の御在位は7世紀の終わり頃です。
そして以来ずっと、我が国では、天皇は意思決定に関わらない、意思決定を行うのは、天皇によって親任された政治責任者の役割とされてきたのです。

幕末における開国か攘夷かという二択は、国家の命運を担うたいへん重く大きな政治問題です。
そしてこの時代、朝廷の内部でも、開国派と攘夷派が、政治責任者として度々入れ替わっています。
孝明天皇ご自身の意思ではないのです。
このことは明治天皇におかれても同じです。
つまり、「明治天皇が替え玉」になる必要性が、そもそもないのです。

幕末は、いまよりも、ずっと尊王思想が強かった時代です。
むしろ尊王こそが常識化していた時代です。
だから「尊皇攘夷」だし「尊王開国」です。
尊王であることを基盤として、攘夷か開国かという政治問題への対策が求められていたのです。

そうした時代背景にあって、尊王そのものを否定する「替え玉」説などは、そもそも成り立ちようがないし、その必要もない。
必要もないのに、替え玉など、そもそも誰がするというのでしょうか。
そのようなことをすれば、した人がかえって政治的に立場を悪くするだけです。

要するに「明治天皇替え玉説」などを述べる人は、申し訳ないけれど、我が国の天皇の存在を、Chinaの皇帝や西洋の王様と同じ、国家最高権力者としての存在の延長線上に捉えている方と断じざるを得ません。
それはつまり、我が国天皇についての勉強不足、我が国国体や神語についての勉強不足であり、我が国の天皇の御存在のありがたさを見失った「とんでもない説」に他ならないと申し上げさせていただきたいと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。

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コメント

-

No title
『明治天皇替え玉説』
って何十年も前からあるみたいですけど
何度も何度も論破されてるにもかかわらず
今も主張している人が多いです
なんででしょうね?左系の人が好きそうな話のネタだからでしょうか?

あと、入れ替わったとされている方は養子ですので
南朝の末裔云々は関係ないです

ネコ太郎

ばかばかしい替え玉説
明治天皇陛下は御製の和歌を10万も残しておられます。
卑しい身分の田舎者に和歌は無理でしょう。

どうして一部の方々は南朝北朝にこだわるのでしょう。
後醍醐天皇の時代じゃあるまいし。
もともと皇室の御兄弟の話で、王朝交代ほどの意味はまったくないし。

くすのきのこ

No title
こんにちは。明治政府は、開国して攘夷(外国勢力を打ち払う)をやってのけ
たわけですね。国全体が上から下まで、こらえて国を変貌させていった。
国の大事には時間がかかりますね。

次郎左衛門

スッキリしました^^!
 お久しぶりです、ねず先生^^!

 実は自分も、この天皇すり替え論を本屋で見たとき、
「そんな畏れ多いことを日本人が、しかも戦前の“真の日本人゛ができるわけない!!」
と、憤りとともに強い疑いを持ちましたが、今日のねず先生のお話を見て、心から安心し、スッキリしました^^!
 …自分は幼い頃、曾祖母(明治生まれ)に、
「日本で一番偉い人は総理大臣?」
…と聞くと曾祖母は即座に、
「違う違う。天皇陛下よ^^」
…と答えてくれました。
続けて、
「…天皇陛下ってどんな人…?」
と尋ねると…
「神様…かねぇ^^」
…と、優しく答えてくれました。
実際その頃の自分も…日本人としてのDNAからなのか…幼いながらにも“天皇陛下“にはどこか仰ぎ見るような感覚がありました。
故に、すり替え論には強い疑問をもちました!

 ねず先生、今日も本っ当にイイお話、誠にありがとうございました^^!
自分は日々、心から敬愛するねず先生を応援しております^^

では!

 

ジャイアントロボ

いつもながら、とても勉強させて頂いております。

記事を読んでいて、ふと思ったのですが、「天皇」という適切な英訳が存在しない、と言うことも、天皇替え玉説に一役買っているのではないのでしょうか。

エンペラー(皇帝)では、世俗君主になってしまってます。
何か適切な英訳で、世界に配信出来ればいいのですが。
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ねずさんのプロフィール

小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

《動画》 「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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