誰も見ていなくても約束を守る日本人の美意識



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上村松園画『静御前』
20180105 静御前


よく時代劇などで、大奥のお女中たちなどが、忍び込んだ曲者に気がついて、薙刀(なぎなた)を持って頭に鉢巻を絞め、
「曲者(くせもの)でございます。
 お出会えそうらえ」
などといって廊下をバタバタと走る姿などが描かれます。

武家の娘といえば、まさに薙刀が定番だったわけですが、なぜ、江戸時代の武家の娘さんたちが薙刀を習ったかというと、実は静御前への憧れからきていたといわれています。
静御前といえばいまでいうダンサーである白拍子(しらびょうし)だった女性であり、源義経とのロマンスが有名ですが、同時に彼女は当時の世を代表する薙刀の名手でした。
武家の女性たちにとって、まさに静御前は永遠の憧れだったし、だからこそ、彼女たちは静御前に倣(なら)って薙刀を学んだのです。
おそらく静御前は、日本史上もっとも多くの女性から愛され続けた女性であろうと思います。

実は、この薙刀、たいへん強力な武器で、相当腕の立つ剣道の達人でも、女性の扱う薙刀の前に、手も無くやられてしまうことがあります。
そういう意味では、江戸の武士たちは、もっとも強力な武器をむしろ女性たちに与え、自分たちはそれより弱い大刀を腰に差していたともいえるわけです。

その静御前は飢饉の際に「雨乞い神事」を行い、ただひとり雨を降らせることができた「神に届く舞」を踊れる白拍子として、後白河法皇から「都一」のお墨付きをいただいた女性です。
この神事のとき後白河法皇の側にいた源義経は、静御前のあまりの美しさに心を打たれ、その場で御前を妻に娶(めと)ることを願い出ました。以来二人はずっと寝起きをともにしています。

けれど京の都で雅な生活をする義経は、鎌倉にいる兄の源頼朝に疎まれ、ついに京を追われてしまいます。
京を出た義経一行は、尼崎から船に乗って九州を目指すのですが、暴風雨に遭って船が難破してしまい、一行は散り散りになってしまいました。


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20190317 MARTH


嵐の中でも、決して手を離さなかった義経と静御前は、一夜開けて芦屋の里に漂着します。
九州落ちが不可能となったため、生き残った弁慶や源有綱、堀景光らと一緒に、陸路で大和へと向かいます。
目指すは奥州平泉です。

大和の吉野山に到着した義経らは、吉水院という僧坊で一夜を明かしました。
そこからは大峰山の山越え路です。

ところが問題がありました。
大峰山は神聖な山で、女人禁制だったのです。
女の身の静御前は立ち入ることができません。

やむなく義経は、静御前に都へ帰るようにと告げます。
「ここからなら
 都もさほど遠くない。
 これから先は
 ひどく苦しい旅路ともなろう。
 そなたは都の生まれ。
 必ず戻るから
 都に帰って待っていておくれ」

これを聞いた静御前は、
「私は義経さまの子を身ごもっています」
と打ちあけました。
そして、
「別れるくらいなら
 いっそここで殺してください」
と涙ぐみます。

このときの静御前は鎧(よろい)を着て大薙刀を手に持っています。
鎧姿に身を包み、愛する人との別れに涙する絶世の美女、泣かせる場面です。

ここでひとこと注釈を挟みます。
大峰山は、たしかに女人禁制の山です。
しかし義経一行は、頼朝に追われた逃避行です。
いわば緊急避難行動中です。

たしかに静御前は女性ですが、大峰山に入る姿を誰かに見られているわけではありません。
関所があるわけでもありません。
つまり女人禁制とはいっても、女性を連れて入ろうとすれば、いくらでも入ることができる状態です。

人が見ていなければ、見つからなければ、何をやってもいいと考えるのは、昨今の個人主義の弊害です。
昔の日本では、人が見ていようが見ていまいが、約束事は約束事、決まりは決まりです。
たとえどんなに愛する女性であっても、たとえ口の堅い部下しかそこにいなかったとしても、誰も見ていなくてもお天道様が見ている。
だから義経は静御前に「都へ帰りなさい」と言っています。
御前もそんな義経の心中がわかるからこそ「殺してください」と頼んでいるのです。

義経は泣いている静御前に、いつも自分が使っている鏡を、そっと差し出しました。
「静よ、これを私だと思って使っておくれ。
 そして私の前で、
 もう一度、
 静の舞を見せておくれ」

愛する人の前で、静御前は別れの舞を舞いました。
目に涙を浮かべいまにも崩れ落ちそうな心で、静御前は美しく舞う。
それを見ながら涙する義経。
名場面です。

静御前が舞ったときの歌です。

 見るとても
 嬉しくもなし
 ます鏡
 恋しき人の
 影を止めねば

「鏡など見たって嬉しくありません。なぜなら鏡は愛するあなたの姿を映してくれないからです......」

義経一行は、雪の吉野山をあとにしました。その姿をいつまでも見送る静御前。
一行の姿が見えなくなった山道には、義経たちの足跡が、転々と、ずっと向こうのほうまで続いています。
文治元(1185)年11月のことです。

こまかな感想は書きません。
ただ、誰もみていなくてもお天道様が見ている。
そういうことを大切にしてきた私たち日本人のご祖先のことを、私たちはいまいちど思い返していく必要があるのではないか。
多くの方が仰られる「日本を取り戻す」ということは、おそらく、このような美意識をしっかりと保った日本のことを言うのだろうと思います。

そうであれば、どのようにして、なぜ、そのような美しい日本が形成されたのか。
そこをしっかりと掘り下げていく必要があると思うのです。
歴史や偉人伝や、和歌や古事記を学ぼうと言うのは、まさにこうした日本人形成の根幹を知る、学ぶということです。

「一格を定めしめなけければ、どのような優秀な人材を用いようとも国は滅びる」とは西郷隆盛の遺訓ですが、その格の根幹こそ明確にしなければ、おそらく目先の不平不満やどうしようもなく駄目なところばかりを指摘したからといって、けっして国が良くなることはない。

格を知る。
その格を、国家の、そして自分自身の根幹とする。
それこそが日本を取り戻すということなのだろうと思います。

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10 人の名誉を重んじる
11 勇気
12 進取の気象
13 信義
14 国旗
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コメント

bou

No title
おはようございます。
バレなければ何をやっても良いという気持ちと
対極の位置にいるのが越後屋ですね。

現代の越後屋の竹中平蔵氏に対してデモが行われます。
有志の皆様のご協力をお願いします。

【24日竹中平蔵デモ詳細&オリックス前街宣(ドイツ銀行、金融危機、水道民営化)】
https://www.youtube.com/watch?v=XVWGO6Xq1h8

茄子紫

なんということもない
躾という漢字そのものですが立ち居振る舞い、姿勢と生活の基本知識
あとはいつでも
お天道様に恥ずかしくないようにあれ

これだけで基本okですよね…
日本頑張って

岡 義雄

No title
おはようございます!
今日も拝読させていただきました。シェアさせていただきました。
ありがとうございます。
駄目なものは駄目、それでいいと思います。小さい間にしっかり教え込まないと駄目なんです。理屈は後からついてきます。それでいいんです。「あの時の理由はこれか?」みたいな・・・気づくはずです。

takechiyo1949

神様が見ているぞ!
法に触れなければ?
審判が見逃したら?
何をやってもいい?
自分だけが正しい?
そんな風潮が気になります。
神様が見ているぞ!
親の言葉を思い出しながら「道」を歩いて行きます。
朝から良いお話を有難うございます。
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ねずさんのプロフィール

小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

《動画》 「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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