ですからミトコンドリア・イブの直系の子孫にしても、あちこちを転々とした結果、いまは中央アフリカあたりに生息するようになっただけであるのかもしれず、この分野はまだまだ想像力の世界といえるものであろうと思います。
一方、日本で11〜12万年前の石器が発見されたからといって、人類の始祖が日本人であるとも限りません。
そもそも万年の単位で人類史を考えるときには、いまとまったく異なる地形を前提に考えなければならないからです。
下の図は、およそ20万年の間の地球上の海面の高さの変化を示したものです。
上にある横線が現在の海面です。
図の下の灰色の部分が、その時代の海面です。

出典:丸地三郎氏『DNAから導きだされる日本人の起源』こうしてみると、現代というのは、きわめて海面が高い時代であって、20万年という長いスパンで観たときには、むしろいまよりもずっと海面が低かった時代の方が、はるかに長かったことがおわかりいただけようかと思います。
なぜいまよりもずっと海面が低かったかの理由は明快です。
氷河期という言葉があるように、地球全体がいまよりもずっと寒かったからです。
現代の海面が高いのは、地球気温が高いからです。
ちなみに寒冷期においては、北極や南極の海が凍るから海面が低くなるというのは、間違いです。
これも簡単な理由です。
アルキメデスの原理です。
中学校の理科で習った記憶のある方もおいでになるかと思います。
コップいっぱいの水に氷を浮かべたとき、その氷が溶けても体積は変わらず、従ってコップから水がこぼれることはありません。
ですから北極や南極の海面に浮かぶ氷が溶けても海面の水位は変わりません。
ではどうして海面の高さが変わるのかというと、3つの理由があります。
陸上の氷と、熱膨張と、気体です。
海面の氷は溶けても水位は変わりませんが、陸上にある氷河などの氷は、溶ければ海に流出しますから、当然、海面が高くなります。
また、気温が高くなると、水は熱膨張を起こしますから、海水のかさが増して海面が上がります。
そして気温があがれば、海水が蒸発し、水蒸気となって空気中にまざります。
水蒸気が増えれば雲が厚くなります。
すると太陽光が地上や海面に届かなくなり、急速な寒冷化が起こります。
地上が凍りつくと、森林の樹木にも影響が出ます。
氷の上では植物は育ちませんから、森が育たず、空気中の酸素濃度が低くなります。
これが寒冷期の特徴で、すると生物は、少ない酸素で生きなければなりませんから、体が小さくなります。
こうなると人間も平均身長が1メートル20センチくらいになるそうです。
逆に森が育つようになると、酸素濃度が上がるので、体が大きくなります。
計算上は、人間の身長も15メートルくらいになることができるのだそうです。
植物も大きくなります。
直系100メートルくらいの樹木なども育つ可能性が出てきます。

アメリカ合衆国ワイオミング州北東部に存在するデビルスタワー(Devils Tower)
古代における巨木の切り株の化石であるといわれている。
画像出所=https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%93%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%AF%E3%83%BC恐竜などは大きな生き物ですが、現在の酸素濃度では、ひとつの心臓だけで血液中のヘモグロビンを全身に行き渡らせることが困難で、従って恐竜の生きた時代ジュラ紀(2億年前)の地球の酸素濃度は、いまよりもずっと濃かったといわれています。
ちなみに余計なことですが、恐竜は絶滅したわけではなく、体を小さくして、今も鳥類として生き残っているという説があります。
最新の学説では、恐竜は爬虫類のような裸ではなく、鳥のように全身毛で覆われていたとされています。
ティラノザウルス・レックスも、もしかすると華麗な羽毛で覆われた美しい生き物であったのかもしれません。

画像出所=https://ji-sedai.jp/series/research/029.html
(画像はクリックすると、お借りした当該画像の元ページに飛ぶようにしています。
画像は単なるイメージで本編とは関係のないものです。)まあ、億年単位のことはさておくとして、現生人類が生まれたとされる5〜4万年前は、いまよりもずっと海面が低かった時代です。
そして海面が低くなるとどうなるかというと、いま大陸棚と呼ばれているところは、残らず地上に露出します。
約3万2千年前 沖縄県那覇市山下町の第一洞穴から、国内最古級の子供の大腿骨と脛骨が昭和43年(1968)に発見されていますが、この頃の沖縄県は、いまのように小さな島が点在しているところではなくて、日本列島をそのまま小さくしたような、ところどころが海で分断されているだけの、台湾あたりから日本本土あたりまで続く、弓上の大きな島が連続している列島を形成していたことが、確認されています。
このことはGoogle mapでどなたでも簡単に確認することができます。
Google mapを衛星写真モードにしたスクリーンショットが↓です。
現在は海になっているところで、薄い水色に見えているところが大陸棚です。
その大陸棚は、かつて海面がいまよりもずっと低かった時代には、地上に露出していたところです。

この時代はたいへんに寒い時代であったことはおわかりいただけると思います。
いまの日本列島のあたりは寒帯になります。
当時は衣類も暖房も発達していなかった時代ですし、人口も下の写真に写っているところぜんぶ合わせても5万人あるかないかです。
土地の所有権もありません。
ですから人は、もっとも住みやすいところで生活すればよかったわけです。
そして人は食べなければ生きていくことができない生き物です。
その食物に、塩分とカルシウム、ミネラルは欠かせません。
これらを効果的に摂取するためには、海に面したところで海中の魚介類や海藻などを摂って食べるのが効果的です。
そしてこの時代、もっとも住みやすかったであろう所が、琉球列島と東シナ海に張り出した大陸棚に囲まれた内海に面したエリアです。
内海は、波が静かです。
しかも海がとてもきれいで透き通っていた時代です。
その内海が浅ければ、太陽光が海の底まで届きますから、そこはあたたかな海になります。
温かい海には、たくさんの魚が生息します。
つまり、人にとって住みやすいところです。
この大陸棚と琉球列島に挟まれた海のことを、近年では誰が付けた名前なのか「あけぼの海」というのだそうですが、わが国には、もっと古い名前があります。
それが「ひる湖(こ)」です。
古事記において「ひるこ」は、海に流したと描写されていますが、海に沈んだ内海(ないかい)であった可能性があります。
そういう万年の単位の伝誦が、神話となって語り継がれてきたわけです。
最近、どこぞの学者さんとNHKがタッグを組んで、縄文人が台湾あたりから船に乗ってやってきたことを再現しようというプロジェクトが行われました。
別に海を渡らなくても、そもそも陸続きなのですから、歩いてやってくることができたわけです。
これを指摘されたところ、当該プロジェクトは「3万年前に海を渡ってやってきた日本人のルーツを探る」などと言い方を変えましたが、3万年まえであっても、陸続きであったことに変わりはありません。
ちなみにGoogle mapをご覧になれる方は、この「ひる湖」のあたりを拡大して見てください。
ところによって、明らかに河口であったと思しき場所などが確認できます。

そういえば沖縄には、天照大御神は、はじめ沖縄に降臨され、その後ヤマトに渡っていったという神話があるのだそうです。
おそらく海底探査の技術が進歩すれば、このあたりの遺跡も将来発掘される日が来るのではないか。
なんにせよ、楽しみなことです。
お読みいただき、ありがとうございました。
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コメント
こくまろ
2019/10/10 URL 編集
takechiyo1949
『互いに競い合え!』とも言われました。
すぐに想像したのは、石器時代の気の長い手作業です。
近代的な高速機械加工技術ではありませんでした。
某局の「クローズアップ現代」でしたか…渡来再現?
映像を観た記憶があります。
陸続きなのに何で小舟?
単なる大海原の漂流記?
縄文人を馬鹿にしてる?
何とも違和感満載でしたね。
私達が生かされている星。
表面には大地と海原があり、それを大空が包んでいます。
森羅万象の悠久の営み。
想像すると自分が「ポンコツ人間」に思えてきます。
2019/10/09 URL 編集
中村啓一郎
2019/10/09 URL 編集