災害に備えた江戸の街並み



災害に遭うのはかなしいことです。
けれど、生き残りさえすれば、また復興することができる。
生命をつなぐことができる。
そういう文化をしっかり持っていたから、日本は上はお役所から、下は民衆に至るまで、木造建築物に住んだのです。
これらは私達が日本列島に住む以上、常に考えていかなければならない課題です。


20200120 印旛郡
画像出所=http://happy60s.net/2017/03/20/bousounomura/
(画像はクリックすると、お借りした当該画像の元ページに飛ぶようにしています。
画像は単なるイメージで本編とは関係のないものです。)


上にある写真は、江戸時代の街並みの残る千葉県印旛郡栄町の写真です。
ご覧いただいて、どのようなことにお気づきいただけるでしょうか。

1 道路に面して家の屋根の向きが皆同じ
2 家屋が木造で二階建ての家しかない
3 道路が未舗装だけれどゴミがない
4 各家に土間がある
5 空が青空
6 道路が意外と広い・・・

等々、さまざまなお気づきがあるかと思いますが、大事なのは1と2です。(3もかな)

道路に面して切り妻の屋根の向きが皆同じで、しかも二階屋しかないということには、実は理由があります。
災害対策のためです。

木造住宅ですから火に弱くて、火災が発生すると町がそっくり焼けてしまうというリスクがあります。
ですから日頃から火事にはみんなで気をつけるし、万一火災が発生したときには、ボヤのうちに消し止めれるようにと、火の用心の防火桶などを辻ごとに設置したりもしました。

それでも火災が大火になることがあります。
そのときは、町火消しさんの出番で、町火消しさんたちは、延焼を防ぐために家を引き倒したのは、皆様ご存知の通りです。
このとき、道路側に引っ張って倒した家屋が、向かいの家を壊したらなんにもなりませんから、道路の幅は、家の高さに比例するように建てられました。

ですから基本的に家屋は二階屋までです。
三階建や四階建ての家屋をつくるだけの建築技術は、お城などに明らかなように、すでに大昔に確立していましたが、火災の延焼を防ぐために(家を引き倒すから)、家屋は二階屋までとされていたのです。


ですから、長屋のような平屋建ての住宅の場合は、道路幅は、上の写真のものよりもずっと狭くなります。
要するに、家屋の高さに応じて、道路幅が決められていたわけです。

戦後に半島系の人たちによって建てられたドヤ街と呼ばれる街並みは、道路が人ひとりが通るのがやっとといった狭いものであったりしますが、いまではそうした戦後のドヤ街がノルスタジックだなどといいだす人もありますけれど、それは災害の多い日本の文化ではありえないことです。
火災が起きたらどうするのか。
この点をまったく考えていないからです。

火災に際しては、家を引き倒しやすいように、花釘(はなくぎ)と呼ばれる木製の釘が各戸に取り付けられていました。
町火消の人は、はしごにのぼり、大鎚(おおづち)を使って、その花釘をコンコンと叩いて外します。
すると家は、簡単に手前に倒せるように設計されていました。

また、これらの家屋は、すべて鉄製の釘を一本も使わずに建てられました。
なぜそうしたかというと、火災の消化後、瓦礫の撤去には女子供も手伝いますが、釘があると、それを踏んでしまって怪我をします。
ですから釘を使わないで、家を建てたのです。

そんなに火事が心配なら、最初から石造りやレンガ造りの家にすればよいではないかと思う方もおいでかもしれません。
しかし日本の災害は、火災だけではありません。
地震もあれば、鉄砲水もある。

地震によって家屋が倒壊したとき、あるいは大水によって家が土砂に埋まったり、全半壊したとき、すみやかにこれを復旧するためには、石造りやレンガ造りでは、被災して瓦礫となった家屋の片付けや撤去ができにくい。
瓦礫の処分にも困ります。

木造であれば、なるほど家は跡形もなく残骸になってしまうかもしれませんが、簡単に瓦礫の撤去ができます。
太い柱であれば、表面の汚れを削り取れば、再生利用も可能です。
そして、またすぐに住めるようになります。

ちょっと考えれば誰にでもわかることです。
鉄筋コンクリート造りの街並みは、ひとたび瓦礫の山になれば、その瓦礫の撤去だけでも何年もかかります。
また住めるようになるまで、人々はどうやって生活したら良いのか。
ところが釘さえも使わない木造住宅であれば、たとえ焼け野原になっても、たちまち瓦礫を安全に処分でき、日頃から木材さえ確保しておけば、またたく間に町を復興できる。

日本は広大な国土があって、街が壊滅したら、また別な場所に街を造れば良いという国とは異なります。
どこまでもいまいる場所を大切にしていかなければならない。
そう考えると、高層ビルが乱立する日本の昨今の都会の街並みは、何も考えていない、いまだけ良ければあとのことは知らないといった、たいへんに無責任な街並みに思えてきます。
要するに銭金に明かした馬鹿者の街です。

もちろん、高層ビルなどがそれなりの耐震耐火構造物であることは認めます。
しかし想定内の地震、想定内の台風ばかりがやってくるわけではないのです。

災害に遭うのはかなしいことです。
けれど、生き残りさえすれば、また復興することができる。
生命をつなぐことができる。
そういう文化をしっかり持っていたから、日本は上はお役所から、下は民衆に至るまで、木造建築物に住んだのです。

これらは私達が日本列島に住む以上、常に考えていかなければならない課題です。
通りすがりの出稼ぎで、いま稼げれば良いというドヤ街を作った人たちとは違うのです。

お読みいただき、ありがとうございました。


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コメント

よみひと知らす

No title
だいぶ以前に、ある深夜テレビ番組のゲストに、今は無き大阪の老舗大料亭の女将さんが出ていて話していた。
『大阪は、ほんま綺麗な町やったんですよ、みんな戦災で焼けてしもた』
 ふと、思い出してしまった。

にっぽんじん

どっちが怖い
中国で感染が増加している新型肺炎はかってのサーズに比べると感染力も毒性も弱いと日本政府は楽観しているようです。

感染力と毒性だけを比べれば其の通りかも知れません。
が、武漢で何が起きているか。正しい情報を持っているのでしょうか。
武漢では新たな病院(入院施設)を超突貫で建設しているようです。

医療関係者、治療薬不足で新たな患者の手当てができない状況だと聞いています。毒性が弱くても治療できなければ重傷化していきます。

感染力が弱くても封じ込めに失敗すれば患者数は増加していきます。
新患者の治療が出来ない状態だけは避ける必要があります。
毒性や感染力が弱いと楽観するのか危険ではないでしょうか。

takechiyo1949

木の家は最高です
それぞれの地域には風土の違いがあります。
暑さ、寒さ、湿度。
乾燥、台風、積雪。
それらに適合した家でなければ人の暮らしは成り立ちません。
石の家、土の家、泥の家。
氷の家、草の家、木の家。
そして鉄筋コンクリートの家。
素材も様々です。
いつでもどこにでも移動できるパオなんてのもありますね。

我国は、美しい山林に恵まれた環境ですから、主流の木の家は当然だと思います。
また、夏季は高温多湿です。
木材は、温度や湿度に応じて状態を柔軟に変えます。
最も相応しい建材ですね。

若い頃に木造二階建ての家を建てましたが売却し、今の鉄筋コンクリートの家に移りました。
「一度でいいから高層階に住んでみたい」
相方の望みを叶えた形です。
しかし私の本音は違います。
(木造平屋の家が一番いい…)
絶対に言えませんけどね(汗)

10階からの眺めは最高ですが、地震の揺れは恐いです。
火事になったら?
停電になったら?
逃げ出せるのか?
ビクビクしなから住んで14年。
耐震耐火構造の一級品です!
業者に言われても…私の不安感は一向に消えません。
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ねずさんのプロフィール

小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

《動画》 「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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