シラス(知らす、Shirasu)



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 3月6日 小名木善行


日本は「天皇の知らす国」です。
この根幹を忘れると、日本を見失います。


20200309 昭和天皇
画像出所=https://webronza.asahi.com/culture/articles/2019043000002.html
(画像はクリックすると、お借りした当該画像の元ページに飛ぶようにしています。
画像は単なるイメージで本編とは関係のないものです。)


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『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』にも書きましたが、古事記に「シラス」という言葉があります。
古事記では、漢字一文字で「知」と書かれています。
この言葉こそ、日本の歴史の根幹にある言葉です。

この言葉は古事記のいたるところに出てきます。
わかりやすいのは、大国主神の国譲りです。
そこでは、シラスとウシハクが、会話として出てきます。

出雲の国の伊那佐(いなさ)の小浜(をはま)に降りたった建御雷神は、十掬剣(とつかのつるぎ)を抜き、その剣を切っ先を上にして波の上に立て、その剣の切っ先の上に大あぐらをかいて坐ると、大国主神に、次のように問うのです。
「汝のウシハクこの葦原中つ国は、
 我が御子のシラス国と仰せである。
 汝の心やいかに。」

ここにあるウシハクは以音です。
「ウシ」は主人のこと、「ハク」は刀を腰に佩(は)くというように身につけることです。
そこから派生して私的に領有し支配することを意味します。
これは所有と被所有の関係です。

権力者にとって、その権力の及ぶ先が私物であるとするものが、ウシハクです。
被所有とされた者は、所有者によって殺されようが、服役させられようが、文句は言えません。
なぜなら所有物であり、私物であるからです。


20191123 万葉集表紙1200
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昔の西洋において、貴族の妻は貴族の所有物でした。
けれどその貴族は、国王の所有物です。
従って国王が、その貴族の妻を横取りしても、どこからも苦情は来ません。
なぜなら所有物だからです。

このことを国王を独身の王子様に、貴族の妻を独身の美しい若い女性に置き換え、両者が両思いにするとシンデレラの物語になります。
けれど現実は、頭の禿げた中年のヒヒ国王に、愛する夫のいる人妻であるケースの方が圧倒的に多かったといえます。現実は決してお伽噺のように素敵な世界とばかりはいえないのです。

Chinaにおける皇帝も同じです。
比叡山延暦寺で第三代天台座主となった慈覚大師(じかくだいし)は、若い頃円仁(えんにん)という名前でした。
彼は承和5年(838年)に、最後の遣唐使の一員として唐の国に渡りました。
そしてやっとのことで承和14年(847年)に日本に帰国するのですが、その約10年間の唐での生活を、『入唐求法巡礼行記(にっとうぐほうじゅんれいこうき)』という書に著しています。

この書に、当時の唐の皇帝の武宗(ぶそう)の行状が記されています。
武宗皇帝は、道教に入れ込んで、仏教を弾圧した、晩唐の皇帝として知られる人ですが、太和皇后が薨去(こうきょ)したとき、皇后に代わって後宮に入れるべき最高の美女は誰かということになり、ある者がそれは義陽殿(ぎようでん)におわす皇帝の実母であると進言しました。
武宗は、その母を後宮に入れようとしました。
皇后は拒絶しました。あたりまえのことです。
ところがその答えを聞くや否や、武宗は、弓で皇后を射殺しています。

他にも様々な皇帝の蛮行が、この『入唐求法巡礼行記』には実話としてしたためられています。
詳しく知りたい方は、下のURLの拙記事をお読みください。
http://nezu621.blog7.fc2.com/blog-entry-2568.html

なぜこのようなことが起こるのかといえば、それはChinaの皇帝や西洋の国王が、いずれもウシハク権力者だからです。
王権神授説は、国王の権力は神から授かった神の代理人としての権力という解釈ですが、神は人以上の存在であって、人に対する生殺与奪の権を持ちます。
神の姿は見えず、言葉も話せないわけですから、神の名のもとに原爆を投下することさえ可能になります。

易姓革命も同じです。
皇帝の地位は、天帝という名の神様から与えられたものだというのが、その根底にある考え方です。
天帝の姿が見えず、天帝が言葉を話さないことは、神授説と同じ系統に属します。

社会構造のトップが、ウシハク者であるという形は、昔も今も変わりません。
皇帝、国王、領主、大統領、書記長、名称は様々ですが、いずれもウシハク権力者であることに変わりはありません。
世襲であるか選挙で選ばれるかも関係ありません。
トップの地位に座ったその瞬間から、人々に対する生殺与奪の件を持つのです。

しかも、社会構造上のトップがウシハク権力者である場合、権力行使による結果についての責任を問われることもありません。
これは任期制であるか終身であるかとも関係ありません。
なぜなら任期中は責任を問われないなら、その間は、民衆を私物化できるからです。

ウシハク権力に、人柄や人格、政治的方向性も関係ありません。
米国オバマ大統領は、2015年から2016年にかけてのわずか2年間に、およそ5万発に及ぶ爆弾を投下し、少なくとも384人、最大807人の民間人を殺害しています。
もちろん、それは理由合ってのことでしょう。

本来、権力には責任が伴わなければなりません。
これは会社でも同じです。
営業部長は会社の営業部員に必要な部長としてのあらゆる権力を行使できますが、それは営業成果という責任と当然にセットです。

よく引き合いに出すことですが、先ごろ、川崎で中一児童殺害事件がありましたが、もしそのような事件が江戸時代に起きたなら、川崎の町奉行は切腹です。
なぜなら、川崎の町奉行は、そのような悲惨な事件や事故を起こさないために、ありとあらゆる町方に対する権限を与えられているのです。
にも関わらず、事件が起きたのなら、もちろん下手人は逮捕し重罪に処さなければなりませんが、同時に奉行は、事件を防ぐことができなかった責任を負わなければなりません。

奉行が自ら腹を斬れば、奉行の家は安泰です。
息子は次期奉行を世襲することができます。
けれど、奉行がもたもたと責任を取らずにいたら、江戸表から使者がやってきて、「上位でござる」と切腹を命じます。
この場合は、お上の手を煩わせたということになりますから、お奉行の家はお取り潰しです。
妻子も郎党も、明日からは路頭に迷うことになります。
権力は、常に責任とセットでなければならないからです。

ところが現代社会にしても、昔のChinaや西洋の王や皇帝にしても、王として、あるいは皇帝として絶大な権力を持ちましたが、一切の責任は取りません。
明治以降の政治、とりわけ戦後の日本の政治も同じです。
政治権力を持つ閣僚にしても、国会議員にしても、一切責任を取りません。
まれに責任をしっかりと取る政治家もいますが、「二位じゃダメなんですか?」と言って我が国の最先端研究を大幅に遅滞させた政治家や、北朝鮮の拉致に関連したどこかの政党の委員長は、「山は動く」とか言いながら、一切の責任を取っていません。

選挙によって選ばれるのだから、民衆による監視がなされている、と考えるのは詭弁です。
少なくとも任期中は、好き放題のことを、やろうと思えばいくらでもできるからです。

政治が責任を負わないという状態が、どれだけおそろしいものか。
古事記は、このことを極めて象徴的に、天照大御神という太陽が岩屋戸に隠れてしまった、という事例をひいて物語として解説しています。
要するに逆の立場、極めてまっとうな最高の存在が隠れてしまったらどうなるか、ということを、太陽が隠れてしまうという事例をひいて、その重要性を指摘しているのです。

この天の石屋戸神話では、この事件を契機として、八百万の神々が語らい、国家最高の存在を、権威と権力に分離することを開始しています。
つまり国家最高権威こそがトップであるけれど、その国家最高権威は政治権力を持たない。
権力を持たないのですから、権力と対(つい)になる責任も負わない。
なぜなら、太陽神が隠れてしまったら、この世は闇に閉ざされてしまうからです。

そしてこれが行われた場所は高天原です。
高天原におわすのは、全員が神様です。
そして国家最高権威は、その神々を代表して、創世の神々と繋がる立場です。
つまり国家最高の存在として、神々(地上においては民衆)を代表して、神々と繋がるのです。
これを「シラス(知らす、Shirasu)」と云います。

政治権力者は、その国家最高権威によって親任されます。
政治権力者は、ウシハク存在ですが、その権力者は、権力者よりも上位にある天皇によって責任を負う立場となり、また天皇の「おほみたから」である国土や民衆への責任を持つ立場となります。
なぜそうなるかというと、「シラスのなかにウシハクが内包されている」からです。
そしてこの仕組みこそ、神話の時代からずっと続く我が国独自の統治の根本です。

このことを、コップを例にとって説明してみます。
たとえばレストランで食事をします。
目の前にワインの入ったコップがあります。

コップは自分の手の中にありますから、手にしている自分は、そのコップを捨てようが割ろうが誰かに売ろうが自在です。
人に例えれば、痛めつけようが殺そうが売ろうが勝手です。
なにせ自分のものなのです。
これがウシハク状態です。

ところがそのコップがレストランのコップであれば、いかにいまこの瞬間にそのコップが自分の手の中にあり、自在にいくらでも処分できるような状態あったとしても、手にしている人は、捨てることも割ることも売ることもできません。
席を立つときには、ちゃんとお店に返さなければなりません。
この「お店のコップである」という明確な認識のもとにコップを手にするのが「シラス」です。

日本は、天皇という天照大御神からの直系の血筋を、国家の最高権威としてきた国です。
そして、天皇という存在によって、我が国の民衆は、太古の昔から権力からの自由を得ていたのです。

天皇の存在を否定する人たちがいますが、それは、同時に民衆の権力からの自由を意図して阻害しようとしている人たちであるということができます。
そのようなことを好む人達は、はっきりいって、日本人ではありません。

そしてこの「シラス」と「ウシハク」は対立概念ではありません。
シラス統治を行うにあたって、人々の集合体である国家などの機構には必ず秩序が求められます。
そして秩序を維持するために「ウシハク」は必要なことです。

日本の最大の特徴といえるのは、日本が「天皇のシラス国」であり、その「シラス統治」の中に、「ウシハク」を内包させていることです。
両者は、車の両輪です。
シラスだけでは、秩序維持ができない。
ウシハクだけでは、末端の国民が大切にされない。
両者は、「シラスがウシハクを内包する」ということで、はじめて理想的な統治に至るものです。
ここを誤解してはいけません。

※この記事は2017年4月の記事のリニューアルです。
お読みいただき、ありがとうございました。




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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

《動画》 「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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