日本書紀講義2 国之常立尊



災害の多発する日本では、論理を飛躍させて実態を見失うことは、即、大量死を招くものでした。
ですから私達の祖先は、上古の昔から、論理を飛躍させるのではなく、どこまでも客観的に事実を積み上げる工夫をしてきました。そしてそのことが、創生の神話についてさえも、論理的整合性を必要とさせるという日本独自の文化を生んだのです。

持統天皇
20200430 持統天皇
画像出所=https://home.ikebukuro.kokosil.net/ja/archives/46692
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日本書紀講義1 清陽(すみあきらか)
日本書紀講義2 国之常立尊
日本書紀講義3 創生の男女神
日本書紀講義4 磤馭慮嶋(おのごろじま)
日本書紀講義5 陽神左旋・陰神右旋
日本書紀講義6 陽神左旋・陰神右旋(修正版)

昨日に続いて、日本書紀の2です。
やはり冒頭の言葉で、昨日の続きの記述になります。

《原文と読み下し》
しかるのちには かみなかになる  然後神聖生其中焉
ゆへにいはくは かひびくの    故曰開闢之
はじめくにつち うかぶのは    初洲壞浮漂
うをのみずにて あそぶがごとし  譬猶游魚之浮水上也
このときあめと つちのなか    于時天地之中
あしかびのごと なりますは    生一物状如葦牙
すなはちかみと なりたまひては  便化為神
くにのとこたち みこととまをす  号国常立尊
つぎにはくにの さつちのみこと  次国狭槌尊
つぎにとよくむ ぬのみこと    次豊斟渟尊
このみはしらの かみさまは    凡三神矣
あめのみちにて ひとりなす    乾道独化
ゆゑにすめれる をとことなれり  所以成此純男

《現代語訳》
しかる後に、神聖なるものが、そのなかにあらわれました。
それが天地開闢(てんちかいびゃく)のはじめです。
その天地開闢のとき、はじめに州(す)が浮かび漂いました。
それはまるで、魚が水の上で遊んでいるかのような様子でした。
そしてこのときに、天地の中に葦(あし)のようにスクスクと育つものがありました。
それはついには神となりたまいて、国之常立尊(くにのとこたちのみこと)と号しました。


 *


20200401 日本書紀
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20191006 ねずラジ
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日本書紀が最初の神として描く、国之常立尊(くにのとこたちのみこと)の登場です。
誕生した場所は、「洲壞浮漂(くにつちのうかびただよう)」ところです。
ここで「つち」のことを、「壊」という字で書いています。
では、その「洲壞(くにつち)」とは、天にあるのでしょうか。それとも地にあるのでしょうか。
実は、日本書紀は、そのどちらとも書いていません。

ここは大切なところです。
清陽なるものから神が生まれたわけでなく、重濁なるものから神が生まれたわけでもない。
その両方の存在の中から、国之常立尊以下の神々が誕生していると書いているのです。

ここが日本書紀のおもしろいところです。
天地二元論ではないのです。
天地両方があって、はじめて神が成る。
もっというなら、天地の結びから神が成られているのです。

つまりはじめに混沌があり、そこから天地が分かれ、その天地の結びから神が成られたとしているわけです。

もっというなら、清陽と重濁は、両方あってひとつだということです。
清陽でありさえすれば良いということではなく、重く濁った状態にあっても、それもまた神の内なのです。
このことは、重く濁った土の中から、大切な農作物が生まれることを考えれば、きっと「なるほど」とご納得いただけるものと思います。

次いで次国狭槌尊(くにのさつちのみこと)、豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)が成られます。
「くにのさつち」の「さ」は、早苗、早乙女などと言うように、稲のことを指す言葉です。
「つち」は農地を耕す農具です。
つまり「くにのさつちのみこと」は、稲作のための境界を定める神様です。

豊斟渟尊(とよくむぬのみこと)は、豊かさを斟(く)むのですから、豊年満作を意味します。
これもまた農耕の神様です。

国の中心があり、そこで農業がはじまり、豊年満作となる。
これが創生の三神です。
つまり日本書紀からは、はじめから農業を中心とした、臣民の誰もが絶対に食べるに困らない、飢えることのない、豊かで安心して安全に暮らせる国つくりを根本にしていこうとういう日本書紀を編纂した人たちの強い意思を読み取ることができます。

日本書紀の編纂は、もともと天智天皇の681年の詔が開始の発端とされています。
このときの皇后陛下が鸕野讚良野皇后(うののさらのおほきさき)、つまり後の持統天皇です。
天武天皇の時代の政治は、大臣をひとりも置かずに、ご皇室が直接政務を担った時代です。
これを皇親政治(こうしんせいじ)といいます。

けれど天皇は「示す」ご存在であり、政治は責任を負うものです。
そして681年といえば、直接政治に責任を持つことになった草壁皇子(くさかべのみこ)、大津皇子(おほつのみこ)、高市皇子(たけちのみこ)らは、2年前の679年に、天皇の皇后(持統天皇)から、吉野宮で互いが助け合う盟約をかわさせられています。
このなかで高市皇子が20代後半と最年長ですが、地位は草壁、大津に続く三番目。そして草壁、大津の皇子らはまだ十代です。
つまり、この時代に実際に政務の中心となって、権力の中心となっていたのが誰かといえば、それは鸕野讚良野皇后(うののさらのおほきさき)、つまり後の持統天皇以外にない、ということになります。

そして持統天皇が強い意思で進めたのが、日本書紀と万葉集の編纂です。
そしてその持統天皇こそ、皇族の争いから武力をなくし、教育と文化によって皇族や貴族のみならず、日本全国から争いを取り除く、現代日本にまで続く日本人の民度の基礎を築いた偉大な天皇です。

さらにいえば、その御意思は、災害の多発する日本において、決して民衆が飢えることのないよう、常日頃から農業を振興し、食料の備蓄を行い、争いがなく、災害対策のための社会インフラ整備に欠かせない教養と技術を振興し、その教養と技術の育成と、平和な社会の実現のために、日本の社会全体の基礎に、教育と文化を置くというものでした。

日本書紀は、まさにそうした持統天皇の強い信念と御意志を、そのまま反映した書になっている、そのことがわかるのが、まさにこの最初の三神のお名前であり、そのご神名の意味するものであるわけです。
これはすごいことです。

そして、ここが日本書紀と古事記の違いです。
古事記は、最初の神様が天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)です。
その神は、何もないところに、最初の中心点として現れ、その存在のすべてを胎内に取り入れた(隠身)というのが、古事記の記述です。

つまり古事記は、宇宙創生から神々の創生を解き明かしているわけです。
要するに古事記は、最初から神々の書として書かれているわけで、だからこそ摩訶不思議な、神々の世界でしかありえないような描写が続いたりもするわけです。

これに対し日本書紀は、地上に住み、生きる我々にとって何が大切かを書いた書です。
実際、日本書紀は成立の翌年から、教科書として用いられています。
つまり日本書紀は、どこまでも教育のために書かれた書であり、その意味において、きわめて論理的な整合性のある(つまり現実味のある)書き方がなされているわけです。

ですからこれを神学的な意味合いや立場から、書かれていることが古史古伝と違うとかいう議論は、まったく当たらないことになります。
書いたものには、必ず書いた意図(目的)があります。
日本書紀には日本書紀の意図や目的があり、他の古史古伝には、また別な意図や目的があるというにすぎないのです。

そして日本書紀の記述からわかることは、持統天皇が天然の災害の多い日本列島において、誰もが安全に安心して豊かに暮らせるようにしていくために必要な論理的な思考を教育の根幹にされたことを示します。

古代における文学(神々の物語)は、世界中どこの国のものであっても、論理の飛躍(たとえばチャイナの神話には、体が半透明な皇帝が登場したりする)が見られますが、論理が飛躍したら、実際の災害対策に、まったく役に立ちません。
論理を飛躍させて実態を見失うことは、災害の多発する日本では即、大量死を招くものになります。

そこで日本書紀は、論理を飛躍させるのではなく、どこまでも客観的に事実を積み上げる工夫がほどこされ、その根拠として、神話を必要な範囲で伝えるという工夫がなされているわけです。
ところが、これを行うと、地方豪族によっては、「我々の持つ神語と内容が違うものは受け入れられない」と、反発する者が必ず出てきます。
そこでこれを防ぐために日本書紀は、神代の出来事の記述については、「一書曰(あるふみにいはく)」として、多くの異説を併記して「一書曰(あるふみにいはく)」という異説の紹介が、日本書紀の神代に限られているのは、そういう理由に基づくものです。

食を根本とし、論理的な教育と、美しい精神文化によって立国する。
7世紀という、古い時代に、これだけのことを実現した国は、世界に類例がありません。
まさに、
日本、おそるべし!です。

お読みいただき、ありがとうございました。

※ ちなみに個人的には、持統天皇の天才性こそが、万世にわたる日本人の性格を築いたと思っています。


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コメント

-

申し訳ないが、いまの日本女性は堕落している。

神功皇后陛下、持統天皇陛下、卑弥呼など然り、
昔は偉大な日本女性がたくさんいた。

今は大正デモクラシーと戦後の米中朝韓の、
『日本への性差への分断工作』が100年以上も
続く、2600年以上続く日本史においての、

異常事態が続き、日本女性は堕落している。

ねず先生には、宮脇先生か他の女性先生と、
次作は日本女性はかくあれ、を上記の女性偉人
の生涯を通して著述して頂きたいものでございます。

takechiyo1949

持統天皇
とても勉強になります。
ありがとうございます。

皇位継承権は、母親の地位と生まれた順番によって機械的に決まる。
天皇は、国家最高権威として祭祀を司り、政治権力は臣下が執行する。

持統天皇は、短期間の内にこれらの仕組みを定着させました。
そして時代を越え、現代の私達も受け継いでいます。
物凄い先見の明ですよね。

ねず先生が仰る通り、持統天皇は稀代の名君です。
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ねずさんのプロフィール

小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

《動画》 「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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