信(まこと)を交わせる人材を



日本における忠義は、単に支配層に服従することではありません。
ときに上長に逆らってでも、正しいことを為すことが、忠義であり、名誉であると考える。
歌舞伎は、単に服装や舞の華美を競うものではなく、日本的美意識を見事なまでに描写したから、多くの人々の共感を得たのです。

20200512 勧進帳
画像出所=https://thunderparty.jp/contents/240565
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弁慶の「勧進帳」といえば、歌舞伎のお題にもなり、かつてはたいへんな人気を誇った物語です。
あらすじは次の通りです。

 *

源頼朝の怒りを買った源義経一行が、北陸を通って奥州平泉へ落ち延びようとするのですが、頼朝はその義経を捕えるために街道筋に多くの関所を設けます。
義経の一行が加賀の安宅(あたか)の関(石川県小松市)に差しかかったとき、関守の富樫左衛門(とがしさえもん)は、通ろうとする山伏の一行が変装した義経たち一行ではないかと怪しみます。

弁慶は「自分達は東大寺修復のための寄付を募る勧進をしている山伏である」と主張します。
富樫は「勧進のためならば勧進帳を持っているであろう。ならばそれを読んでみよ!」と命じる。
弁慶は、たまたま持っていた白紙の巻物を勧進帳であるかのように装い、朗々と読み上げます。
これが「勧進帳読上げ」のシーンで、実にかっこいい。

なおも疑う富樫は、弁慶に山伏の心得や秘密の呪文について問い正します。
弁慶は間髪をいれず問いに淀みなく答える。
ここが「山伏問答」のシーン。
この問答の掛け合いが淀みなく続くなかに、会場から大きな拍手が沸き起こります。

富樫は、この時点でそれが義経の一行だと見破っているのですが、一方で弁慶の堂々とした振る舞いに心を動かされます。
ところがこのとき、富樫の部下のひとりが「そこにいる小男が義経ではないか」と申し出る。
場に緊張が走ります。


20200401 日本書紀
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20191006 ねずラジ
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富樫もこれを無視するわけにいきません。
富樫は弁慶に「そこにいる小男が義経ではないか」と問う。
すると弁慶は、やにわにその小男を
「お前が愚図だから怪しまれるのだ」と、金剛杖で殴りつけるのです。
金剛杖というのは、いまでもお遍路さんなどで使われる、六角形、または八角形の木の杖です。
これで殴られたら、そりゃ、痛い!

しかし家来が主君を棒で殴るなどありえないことです。
富樫は義経主従の、その振舞に心を動かされます。
そして一行の関所通過を許可する。
これは、第一に頼朝からの恩賞を放棄するということでもあるし、第二に関守としての職務違反です。

それでも富樫は、義経一行の通行を許可します。
そして同時に、自分が義経に気付いたことを周囲に悟らせないように振舞います。
知られたら自分だけでなく、主君を棒で叩いた弁慶の名誉すらも傷つけることになるからです。

弁慶もその富樫の心遣いに気がつかないふりをします。
感謝などしたら富樫の立場を失わせることになるからです。

二人は眼と眼でわかりあいます。
この間、歌舞伎は、ずっと無音です。
笛や太鼓や歌などにぎやかな演出が多い歌舞伎ですが、この「勧進帳」では、最後の弁慶が花道を立ち去るシーンまで、無音の中でのやりとりが続きます。

高度な緊迫感がただよう。

最後に富樫は、「失礼なことをした」と一行に酒を勧め、弁慶はお礼に舞を披露します(延年の舞)。
弁慶は舞ながら義経らを逃がし、弁慶は富樫に目礼して後を急いで追いかける(飛び六方)。

ちょうどこのシーンで弁慶が花道を踊りながら去ってゆくのですが、観客はその姿に盛大な拍手喝采を送ります。

勧進帳の読み上げや、山伏問答における弁慶の雄弁。
義経の正体が見破られそうになる戦慄感。
義経と弁慶主従の絆の深さの感動。
舞の巧緻さと飛び六方の豪快。
見どころが多いこの勧進帳は、歌舞伎のなかでも、古来、特に人気の高かった演目です。

この物語は、もちろん芝居の脚色です。
つまりフィクションです。
しかし、ここで登場した富樫左衛門は、実在の人物です。

実名を富樫泰家(とがしやすいえ)といい、1182年、木曽義仲の平氏討伐に応じて平維盛率いる大軍と加賀・越中国境の倶利伽羅峠にて対陣し、燃え盛る松明を牛の角に結びつけ、敵陣に向けて放ち、夜襲をかけて、義仲の軍を大勝利に導いた大将です。
木曾義仲が源義経に討たれた後は、頼朝によって加賀国の守護に任ぜられています。
肚のわかる豪胆で立派な武士だったようです。

「勧進帳」には、ひとつ、大切な教えがあります。
それは「武士は上からの命令だけで動くものではない」という点です。
富樫が上の命令だけに忠実であるなら、この時点で義経一行を逮捕しています。

しかし彼はそうしなかった。
義経一行と見破りながらも、義経主従の、そして弁慶の立派な態度に心を打たれ、彼らの通行を許可しています。
これは、世の中の仕組みよりも、人としての道を選んだ、ということです。
別な言い方をすると、(ちょっと古い言い方ですが)、富樫と弁慶は、互いに「信(まこと)」を交わしたのです。

単に上からの命令に服従するだけなら、バカでもできます。
しかしそれでは、ただの奴隷です。
そうではなく、自分の価値観に基づいて、判断し、行動する。
同様の物語は、赤穂浪士で大石内蔵助が、江戸に向かう道中で本物の垣見五郎兵衛と出会うという物語にもみることができます。

物事に対し、命令だからと反応的に行動するだけならば、パブロフの犬と同じです。
ベルを鳴らす。犬がよだれを垂らす。
命令がある。その通りに行動する。
これを「反応的行動」と言います。
日本人の伝統的価値観は、こうした反応的行動しかできないことを、非常に蔑(さげす)みます。

ベルが鳴っても、人としてそれが正しい生き方といえるか、自分の行動が先祖や天地神明に誓って正しい行動といえるか。
自らの価値観の上で判断して行動する。
ここに日本人の美意識があります。
美意識というのは、伝統的価値観のことです。

日本における忠義は、単に支配層に服従することではありません。
ときに上長に逆らってでも、正しいことを為すことが、忠義であり、名誉であると考える。
歌舞伎は、単に服装や舞の華美を競うものではなく、日本的美意識を見事なまでに描写したから、多くの人々の共感を得たのです。

コロナの問題にしても、政府や行政が行った自粛は、「命令」ではなく「要請」です。
要請である以上、従う従わないは、個々の判断に基づきます。
ただし、そこには自己責任が伴います。

仮に自分の店から、あるいは自分から感染者を出してしまった場合、それについて責任を取ることができるか。
瞬時にしてこのような考え方ができるから、多くの日本人は、黙って自粛要請に従ったり、あるいはマスクを着用したり、限定的な営業をしたのです。

これに対し、ただ政府の対応を批判するだけに終始した野党や、地方行政の長などは、ただ文句を言っているだけで、そこに何の責任も負おうとしていません。
責任を負わないなら、本来は発言権もないのです。

何の責任も負おうとしないで、ただやみくもに騒ぎ立てることを、「栲衾(たくぶすま)」と言います。
「衾(ふすま)」というのは、もともとは布団を意味したし、いまでは、障子と同じ間仕切りのフスマのことを言いますが、布団はかけたり、敷いたりするものであり、フスマは、開けシメするものです。叩くものではありません。
つまり「栲衾」というのは、意味のない行動や発言を繰り返す人や組織や国などの枕詞です。

とてもじゃないけれど、そのような「栲衾」たちと「信(まこと)」を交わすことなどできません。
そして「信(まこと)」を交わすことが出来ない人たちというのは、本来、国民生活に影響を及ぼす政治や行政の場にいるべき人たちではありません。

江戸時代に寺子屋で使われていた教科書に「童子教」というものがあります。
そこには、「悪しき弟子を養わば、師弟ともに地獄に堕ちるべし」と書かれています。
このことは、悪しき者、信を交わせない者が政治や行政を行うならば、その国も県や市町村も、まさに地獄に堕ちてしまうことを意味します。

その人達が地獄に勝手に堕ちて行くのは仕方がないけれど、巻き添えになる庶民は、たまったものではありません。
政治の正常化は、まずは人の正常化から。
政治は、日本人の日本人による日本人のための政治であるべきです。

お読みいただき、ありがとうございました。


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コメント

川田

いつもお世話になっております。
弁慶のカンジンチョウ、漫画ドカベンで見ましたが、そんな意味があったのですか…もう嫌になります。泣けます。

-

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takechiyo1949

歴史を傾聴し深く学びたい
守るべき人の道は「仁義礼智信」の「五徳」との教えがあります。
伊達政宗 は言いました。
--------------------------
・仁に過ぎれば弱くなる
・義に過ぎれば固くなる
・礼に過ぎれば諂いとなる
・智に過ぎればうそを吐く
・信に過ぎれば損をする
--------------------------
行過ぎはダメ!
バランス良く!
そんな諭しだと思います。

尊敬と互譲の精神は「我国らしさ」そのものです。
しかし、人は罪深いことも沢山しでかしました。
だからこそ歴史を傾聴し深く学び合いたいと思います。

そう念う仲間が集うと、精神劣化が止まらない亡国の輩が必ず湧いて出て邪魔します。
彼奴等が信に足る日本人に成ることなど有り得ません。

悲しいかな、生き馬の目を抜く現代に私達は生きています。
警戒を怠ってはなりません。

にっぽんじん

嘘つきとの付き合い
中国人や韓国人は他人を信用しない。
日本では子供に嘘をついてはいけないと教えるが、彼の国では「騙されてはいけない」と教える。

嘘をつくことを前提の社会で済んいる以上、他人を信用しないのは当然だ。
騙される方が悪いといった考えが彼の国の価値観だということを前提に付き合う必要がある。

国家間の約束は都合が悪く成れば守らないのが彼の国だ。
従って、フェイクを主張し、ファクトを指摘すれば怒って相手を威嚇してファクトを認めない。

仲良くしたければ彼の国の主張を黙認するしかない。
それを繰り返してきたのが今の日本だ。

嘘つきとの付き合いは「黙認」の継続しかない。
日本政府は無理に嘘つきと付き合う必要はないのではないか。
目先の利益しかみない財界の要求を聞いていると多くの国民を不幸にすることを知って欲しい。

中国は国家動員法の発令を狙っているかも知れない。
発令すれば日本企業の資産を全て奪うことが出来る。
金がなくなれば何をするか分からないのが彼の国だ。

-

我が国の美談も中国人にかかると・・・
倉山満さんの番組だったと思いますが、勧進帳の話を聞いた中国人が、賄賂を渡せば簡単だろうに、と言ったとか。
それを聞いたときはズッコケましたが、彼等にしてみれば当然湧いて来る素朴な疑問なのでしょう。
せっかくの美談も中国人にかかれば一言で台無しです。💧
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ねずさんのプロフィール

小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

《動画》 「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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