赤羽礼子著「ホタル帰る」は、とても良い本なので、皆様にもご一読をお勧めします。 定価も税込み630円なので、買いやすいです。 |
富屋食堂

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歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに小名木善行です。
ある本の、頭の方にある一文をご紹介します。
短い抜粋ですので、ちょっとお読みいただけたらと思います。
**********
無事にトメが退院し、富屋食堂は数ヶ月ぶりに元に戻った。
年が明けて昭和19年。
少年兵は第10期生が巣立ちを終え、それぞれに南方の空に飛び立っていき、代わって第11期生になっていたが、池田、川畑らの5人組の指導教官は残っていた。
その日曜日、二女の礼子は初潮を見てお腹が痛いため、奥の自分の部屋で寝ていた。
トメは娘の成人を祝って朝から大量に赤飯を炊いて、いそいそと立ち回っていた。
昼頃になると少年兵たちが三々五々集まってきて、富屋は賑やかになった。
いつものように若い教官の五人組も集まっていた。
「小母ちゃん、きょうは礼ちゃんはいないの」
「礼子はね、きょうはおめでたい日なの。
だから奥で寝てるけど」
話し声は寝ている礼子にも聞こえた。
「さ、皆さん、
きょうはおめでたい日なので、
お赤飯を炊いたのよ。
お祝いだからどんどん食べてね」
「お赤飯? すげえな」
と池田たちは半ば感動し、半ば驚喜していた。
「でも、小母ちゃん、なんのお祝い?」
「なんのお祝いって、
皆さん喜んでください。
礼子が女になったのよ」
それが聞こえて来ると礼子はふとんの中で赤くなった。
「礼ちゃんが女になった?
小母ちゃん、変なこというなあ。
おれ、初めっから礼ちゃんて
女の子だと思っていたけど、
礼ちゃんて女じゃなかったの」
トメはくすくす笑った。
「それにしても変じゃない。
礼ちゃんが男だったとしても、
どうしていまごろ女になるのさ」
体は大きくて、お国のために戦うと立派な覚悟を持っていても、まだこの子たちは数えで19歳、「女になる」という言葉を知らないほどに純粋無垢なのだ。
「さあ、皆さん、どんどんおかわりしてよ」
その言葉の意味がどうであろうと、ここのところは色気より食い気。
少年たちはそろってパクウパクと赤飯にかぶりついた。
**********
この文は、
草思社文庫、赤羽礼子著『ホタル帰る 特攻隊員と母トメと娘礼子』からの抜き書きです。
285ページあるうちの、はじめの50ページからの抜き書きですから、ほんの出だしのところです。
もう、このあたりを読んだだけで、「ああ、同じだなあ」と思って、ジーンとしびれてしまって・・・。
というのは、私も家が男ばかりで育ったので、いい加減、この歳になっても女性はまるで宇宙人です(笑)
なので、若い頃の自分がその場にいたらやっぱり彼らと同じように、
「礼子ちゃんって以前は男だったの?」
と普通に思ったろうし、それよりも目の前にある美味そうな赤飯にかぶりついたと思うのです。
そしてこの本の文章は、
「体は大きくて、
お国のために戦うと
立派な覚悟を持っていても、
まだこの子たちは数えで19歳、
『女になる』という言葉を
知らないほどに
純粋無垢なのだ」
と続いています。
数え歳19ということは、いまの年齢なら18歳の若者です。
そんな若者達が、日本を守ろう、祖国を守ろうと、積極的に航空隊を志願し、厳しい訓練を受けてパイロットになり、特攻の空に消えて行きました。
この本に書いてあることは、ひとつひとつのエピソードが、全て実話です。
著者の赤羽礼子さんは、知覧特攻隊基地近くに実際にあった、富屋食堂の鳥濱トメさんの次女です。
彼女は、ご自身の体験をこの本に綴られました。
上でご紹介した文の冒頭に
「トメの退院」
「第十期少年兵」
という言葉があります。
トメさんが入院したとき、この十期生の生徒たちが、訓練機で上空から順番に病院のトメさんの病室近くまで、並んで降りてくれたのです。
空から、飛行機に乗ってのお見舞いです。
飛行機は大きな爆音がしますから、病院に入院している他の患者さんや職員の方々には、さぞかしびっくりされたことでしょう。
けれど、そうしたみんなが、トメさんを慕ってやってくる少年たちの心のやさしさを思い、誰一人少年たちを怒ったり、航空隊に苦情を言ったりしなかったのだそうです。
日本人は、そういう思いやりの心、互いの心を感じる心、気持ちを察する心を持っていた。
それは、とても大切なことだと思います。
礼子さんを「元男性」などと思い込んだ池田芳彦、川畑三良さんたちは、第九期を卒業し、知覧基地の指導教官になったばかりでした。
指導教官といっても、お赤飯の意味さえわからない。
そういう純粋な若者たちが、日々の猛烈な訓練をし、戦い、散っていかれました。
彼らは何のために戦ってくれたのでしょうか。
物語の舞台になった場所は、知覧の特攻基地と、そのすぐ近くにあった富屋食堂です。
知覧から飛び立った若者たちは、沖縄の海に散っていかれました。
そこは、沖縄攻撃のために、米海軍が海上を埋め尽くすほどの艦船を並べているところでした。
その艦隊は、沖縄に向けて猛烈な艦砲射撃を行いました。
それは127mm以上の砲弾44825発、ロケット弾33,000発、迫撃砲弾22,500発というすごいものでした。
おかげで沖縄南部は、まるで月面のようなクレーターだらけになってしまいました。
その砲弾等には、炸裂時に金属片が辺りに四散するようにしてありました。
おかげでなんとか直撃弾を避けることができても、ようやく壕(ごう)にたどり着いたら、背中に負っていた赤ん坊の首がなかったなどという事態もあったそうです。
そんな猛烈な艦砲射撃が間断なく行われた沖縄でしたが、そんな砲撃がピタッと止まる瞬間があったそうです。
それは、空から爆音が聞こえたときでした。
日本の特攻機がやってくる。
すると米海軍は、沖縄本土への艦砲射撃を一時中止して、特攻機の迎撃に全力を尽くしました。
その間、艦砲射撃が中断します。
沖縄本土に残された人たちは、その間に、必死に後方の壕へと逃げました。
心の中で、そんな特攻機に乗った18・9の若者に手を合わせながら。
勇気って何でしょう。
思いやりって、どういうことでしょう。
戦争が終わって何年も経ち、お母さんだった鳥濱トメさんもお亡くなりになったある日のことです。
上のお話に出てくる礼子さんたち、トメさんの娘さんたちが、我が子を連れて、その知覧基地のあったあたりに行かれたそうです。
昔、その基地には三角兵舎というのがあって、いよいよ特攻に出撃するという若者は、その三角兵舎で夜を明かしました。
いまはもう、その三角兵舎も撤去され、周囲の林だけが残っていました。
その林を散策しているときに、彼女たちは見たのだそうです。
林の中の、木の一本一本に、散華された若者たちが掘ったのでしょう。
自分の名前や、両親に呼びかける声、あるいは友に贈る言葉などが、木々のいたるところに書かれていました。
それを見たとき、彼女たちは思ったそうです。
「ああ、彼らは生きていたかったんだな」って。
ずいぶんまえのことになりますが、京都大や豊橋技術科学大(愛知県)のチームが、
「生後10カ月の赤ちゃんでも、
困っている人に同情する気持ちがある」
という実験結果を発表しました。
テレビでも紹介されましたので、ご存知の方も多いかと思います。
生後8ヶ月の子供に、イジメ役の絵柄と、イジメられ役の絵柄を見せる。
そして子供たちが、どちらを助け、庇護しようとするかを調べた実験です。
すると、0歳児にも明確に思いやりの心がみられたといいます。
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/130613/wlf13061310120002-n1.htm20歳の日本人男女についても、同様の実験を試みました。
すると7割の人が、今度は逆に「イジメている側」についたそうです。
被験者は同じ日本人なのに、です。
どういうことでしょうか。
生後8ヶ月の、まだ日本の教育を受けていない幼児は、イジメている者とイジメられている者がいれば、イジメられている者を助けようとする。それだけの思いやりの心がある。
ところが、その日本人の子供たちが、戦後の学校教育を終えると、なぜかイジメている側についた方が「得だ」と考えるようになっていたのです。
ところが近年では、この傾向がまた変わってきているのだそうです。
20歳の日本人男女たちが、「イジメられている側」に付くようになってきているのです。
幸か不幸か、教育崩壊の成果です。
日本の教育現場が崩壊することによって、日本の若者たちの中に本来の日本人の魂が戻ってきているのです。
赤羽礼子著「ホタル帰る」は、とても良い本なので、皆様にもご一読をお勧めします。
定価も税込み630円なので、買いやすいです。
※この記事は2013年7月の記事のリニューアルです。
お読みいただき、ありがとうございました。
歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに小名木善行でした。
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コメント
にゃんこ二号
知覧のこの食堂の件につきましては『ちらん』(秋田書店)で漫画にもなっております。
漫画ですので表現的には当たり障りのないようになっているかとは思いますが、読みやすくは
ありますので、こちらもおすすめいたします。
『ホタル帰る』も買って読んでみます。
2020/08/10 URL 編集