赤穂浪士外伝「天野屋利兵衛は男でござる!」



「ねずラジ」は、筆者が12年にわたって書き綴ってきたブログの記事4000本の中から、選りすぐりの記事をベースに対談形式でお届けするラジオ番組です。もちろん、ただ過去記事を読み上げるだけでなく、その都度補足しながら、より理解が深まるように話しています。意外と人気で、リスナーが多いのでびっくりしています。
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「町人なれども天野屋利兵衛、
 思い見込んで頼むぞと、
 頼まれましたお方様には
 義理の二字がございます。
 たとえ妻子がどのような
 火責め水責めに合うとても、
 これで白状したのでは
 頼まれました甲斐がない。
 天野屋利兵衛は、男でござる!」


20151215 天野屋利兵衛
画像出所=http://www.kusuya.net/%E5%A4%A9%E9%87%8E%E5%B1%8B%E5%88%A9%E5%85%B5%E8%A1%9B
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小名木善行です。

昨日、赤穂浪士外伝から「矢頭右衛門七」をご紹介しましたので、今日は同じく外伝から天野屋利兵衛(あまのやりへい)をご紹介してみようと思います。
上にある絵は、面白いので貼ってみたのですが(クリックすると掲載ページに飛びます)、同じ役柄でも、演じるのが丹波哲郎と、藤田まことでは、ずいぶんと雰囲気が違うもですね(笑)。

天野屋は、大阪で代々続いた回船問屋の大店(おおだな)です。
熊本の細川家や、岡山の池田家などにも出入がありました。
大阪商人の寄り合いでは、北組の惣年寄にもなっていたくらいですから、かなり商売も順調だったのでしょう。

ところが五代目利兵衛のときに大きな海難事故があって、店が傾いてしまいます。
そのとき助けてくれたのが「赤穂塩」で藩の財政を立て直しを図っていた播州赤穂藩でした。
このときから天野屋は「赤穂塩」の販売をいってに手掛けるようになり、家業を再興しています。
ところが元禄13年、赤穂のお殿様が江戸城の殿中で刃傷沙汰を起こし、赤穂藩はお取り潰しになってしまったわけです。
これはある意味、天野屋からしてみれば、商売の浮沈に関わるたいへんな事件だったわけです。

そんな天野屋のもとに、ある日やってきたのが、元赤穂藩の家老だった大石内蔵助(おおいしくらのすけ)です。
「内密で刀身が短く身幅の広い刀を50本ばかり用意してもらえぬか」
そう問う内蔵助に、
「もしかすると」と天野屋利兵衛は察します。
《刀身が短く身幅の広い刀》というのは、屋内での戦いのための刀です。
しかも乱戦で相手の人数が多いことを想定したときに用いる刀です。

少し補足すると、屋内では天井が低いので普通の長さの大刀では、上段からの打ち込みができません。
だから刀身を短くするのです。
また《身幅が広い》というのは、乱戦で刀と刀が打ち合ったときに、折れない、曲がらないようにするための工夫です。
つまり内蔵助は、明らかに吉良邸討ち入りを前提とした刀を求めにやってきたのです。

時は元禄時代です。
将軍は、第五代の徳川綱吉(つなよし)です。
綱吉といえば「生類憐れみの令」で有名です。
この法は、学校では「天下の悪法といわれ、綱吉は犬公方(いぬくぼう)とアダ名された」と、否定的に教えられますが、実はこの「生類憐れみの令」、何も犬だけを殺すなといっているのではありません。
犬さえも殺してはならないのですから、なおのこと人が人を殺すことは、傷つけることまでも御法度(ごはっと)というのがこの令の趣旨です。

武士は刀を持ちます。
町人でも、ヤクザ者などは長脇差を腰に付けます。
刃物を持っていて喧嘩になれば、それが抜かれるし使われます。
武士は、民百姓から侮られないためにも、刀は必要ですが、それでも戦国の世は終わり、世は泰平の世となっているのです。
無駄な刃傷沙汰は、仇討も含めてもはや終わりにしたい。
それが「生類憐れみの令」となって発令されたのです。

もちろん綱吉の孝行などがきっかけのひとつになったこともあったでしょうけれど、この生類憐れみの令は、その後も幕末までに百回以上に渡って御触れが出されています。
綱吉がアホの犬公方というなら、以後の将軍全員もアホということになってしまいます。
ありえない解釈だと思います。

そういうわけで綱吉の時代というのは仇討などもってのほかです。
堀部安兵衛の高田馬場の決闘なども有名なものではありますが、仇討が御禁制となって、他にする人がいなくなったから、あの事件が際立ったのです。
まして江戸市中で、集団で主君の仇討など、絶対に認められないというのが幕府の立場です。

「明察功過(めいさつこうか)」が治世の要(かなめ)とされた時代です。
事件や事故は、起きてから起こした者を罰するのでは、周囲のみんなが不幸になります。
遅すぎるのです。
だから事件や事故は、起こる前に手を打つことで予防する。
それがこの時代の考え方です。

では、実際に殺人事件が起きたらどうなるのか。
それが町方(まちかた)の事件であれば、町奉行が責任を取って切腹です。
なぜなら奉行は、そうした悲惨な事件が起きないように全権を与えられている人だからです。
全権を与えられながら、事件が起きたのなら、その責任は当然、権力を持った奉行の責任です。
権力と責任は常に等価の関係にある、というのが、この時代の常識だったのです。

ということは、もし赤穂の浪士たちの討入が実際に行われれば、該当する奉行は自身が腹を切らなければならなくなります。
だからこそ幕府の奉行たちは、赤穂の浪士たちの決起を、なんとしてでも防ごうとしていたのです。

こうした時代背景のなかにあって、天野屋利兵衛が赤穂の浪士たちの武器の調達を手伝ったとなれば、共犯者として、処罰は免れません。
天野屋利兵衛にしてみれば、代々続いた天野屋の看板も、自分が最期にしてしまうかもしれない。

そんな立場にある利兵衛の目の前で、赤穂藩の元家老が頭を下げているのです。
しかもこの天野屋利兵衛を男と見込んで秘事を打ち明けてくれている。
考えた末、天野屋利兵衛は、内蔵助の依頼を承諾しました。

利兵衛は、取扱商品の中から、まず最高の鉄を探しました。
調べてみると、岡山県の最北端にある西粟倉の若杉村のハガネが上質です。

刀鍛冶職人も探しました。
秘密が守れて、若杉村に長逗留できる職人となると限られます。
ようやく3人の刀鍛冶職人の手配をつけました。

さらにできあがった刀を研ぐのに用いる磨草に、播州徳久の庄から、大量の磨草を求めました。
ヤスリも植物性のものが最良だからです。

そして利兵衛は、湯治と称して刀鍛冶を連れて、若杉村に入りました。
自ら刀つくりの監督をしたのです。
こうして刀作りに励む利兵衛ですが、あまり若杉村にばかりもいられません。
彼は、大阪の店に戻っては、また湯治と称してでかけていきました。

利兵衛があまり頻繁に湯治に出かけるため、ある日、妻のおかよが「何処の湯治場へ行かれるのですか」と尋ねました。
これが上杉家の密偵に洩れました。

密偵は但馬の若杉村まで行って、事実を確認しました。
けれどその密偵は、「武器製造の噂は嘘であった」と上杉のお殿様に報告しています。
このため利兵衛が無事武器を造りおおせたという話も残されています。

元禄14年7月、ようやく刀ができあがりました。
問題は、その刀をどうやって運ぶかです。
彼は、刀をこの地の産物である山芋に見立て、ススキ(茅)で編んだ包にこれを入れて浪速まで運搬しました。
おかげで、いまも岡山県の西粟倉村(にしあわぐらむら)のあたりは、別名で「大茅(おおがや)」と呼ばれています。

利兵衛は、山道の間道を選びながら海へ出て、海路で江戸まで刀を運びました。
それは西粟倉村から224里、約900kmの旅でした。
ところが無事に内蔵助に刀を届けた利兵衛は、浪速に戻ると大阪西町奉行に逮捕されてしまうのです。
容疑は、大量の武器の受注です。

奉行所では、注文主の名を白状せよと、天野屋利兵衛に再三の拷問を加えました。
肉が破け、骨が折れ、血だらけになってげっそりやつれ姿になっても、天野屋利兵衛は吐きません。
ついに奉行所は、利兵衛の子の芳松を捕らえてきて、利兵衛の目の前で芳松を火責めの拷問にかけると言い渡しました。
真っ赤に焼けた鉄板の上を、年端もいかない芳松に裸足で渡らせるというのです。

我が子が火攻めにかけられる!
目の前で可愛い我が子が恐怖に怯えています。
利兵衛は息子に言いました。
「芳松!
 笑ってその鉄板(てついた)を渡っておくれ。
 私も死んで一緒に死出の旅では、
 おまえの手をひいてあげるから!」
「ええい、まだ言うか!」と声を荒げる役人に、天野屋利兵衛は言いました。
これがこの物語の「決め」のセリフです。

「町人なれども天野屋利兵衛、
 思い見込んで頼むぞと、
 頼まれましたお方様には
 義理の二字がございます。
 たとえ妻子がどのような
 火責め水責めに合うとても、
 これで白状したのでは
 頼まれました甲斐がない。
 天野屋利兵衛は、男でござる!」

そこに利兵衛の離縁した女房のおかよがひったてられてきました。
利兵衛は、自分の変わり果てた姿を見たり拷問にかけられそうになっている息子を見たら、きっと女房が余計なことを喋るにちがいないと踏み、
「この女は発狂しておりまする。
 だから離縁したのでございます」とうろたえました。

予想どおり、状況を見かねたおかよが、これまでの浅野家と夫の関係をペラペラと喋ります。
ところがこれを聞いていた大阪西町奉行は、次第におかよが語る利兵衛の姿に心を打たれるのです。
そして核心に触れそうになったところで、奉行自身が、
「おかよと申すその方、
 利兵衛の申す通り、
 お前はすでに気が違ごうておる。
 何を言っているのかまるでわからぬ。
 取り調べはこれにて終わりに致す」

討ち入りの後、奉行は「取り調べれば忠義の邪魔」と、利兵衛を釈放します。
利兵衛は、家督を芳松に譲り、76歳でこの世を去りました。

「天野屋利兵衛は男でござる!」
日本人が取戻べき精神性の雄々しさが、ここにあります。
大石内蔵助も、利兵衛から武器を受け取った際に、涙を流しながら一片の色紙を贈っています。
そこには、次のようにかいてありました。

「町人ながらも義に強く、
 意地を通じて侠気(おとこぎ)の
 武士も及ばぬ魂は
 亀鑑(きかん)と代々に照返す」

亀鑑(きかん)というのは、人のおこないの手本や模範を意味する言葉です。

と、話はここで終わりなのですが、ほんのちょっとだけ、余計なことを書いておきます。
赤穂浪士の吉良邸討ち入りは、幕閣内でもそれが義挙なのか、仇討禁止の御法度を破った天下の大罪人なのか、たいへんな議論になりました。
これを大規模な殺人事件とすれば、事件の発生を未然に防ぐことができなかった関連部門の責任者は、全員切腹です。
武家の社会というのはそういうものです。

このことは、何度もこのブログでご紹介していることですが、川崎の中1児童殺害事件のようなものが起きれば、川崎の町奉行は切腹なのです。
なぜなら明察功過によって「事件を未然に防ぐ」のが奉行の役割です。
そのためにあらゆる権限が与えられています。
にも関わらず事件が起きてしまったのなら、その責任をとって切腹するのがあたりまえです。
責任と権限は両立するものだからです。

ところが赤穂浪士の義挙は、町方の殺人事件とは異なり、武士によって起こされた主君の仇討です。
ということは、この問題に関する最高責任者は、武家の治安を預かる者ということになります。
ということは、責任をとって切腹しなければならないのは、誰でしょうか。
答えは将軍です。

つまり将軍が腹を斬らなければならない事態になるのです。
だから幕府内で問題になったのです。

そこで知恵者の柳沢吉保(やなぎさわよしやす)です。
この事件を、主君の仇を討った義挙とすれば、討ち入りを果たした浪士たちは忠義の士であり、部門の誉れです。
つまり討ち入りが正義になるのです。
正義であれば将軍が責任を問われることもない。

ただし、だからといって浪士たちへの処罰を「お咎めなし」とすれば、以後、同種の事件が起こるたびに、再び将軍の責任問題が浮上してしまいます。
だから義挙でありながら、実行犯は切腹という判断に至っています。

そしてその結果討入犯人たちは命を失いますが、義挙をしいさぎよく切腹をした英雄となって名を残し、その家族等の再就職も容易になります。
そして、目付けや奉行、ひいては将軍が事件の責任を取る必要がなくなるのです。

この知恵を出したのは新井白石、採用したのが柳沢吉保と言われていますが、実に見事な采配であったと思います。

一方、被害者となった吉良家の側は、お咎めなしで、家も領土も安泰となりました。
足利以来の高家である吉良家は、名門の家柄であり、伝統を重んじただけのことですから、当然処罰の対象にはならなかったのです。

討ち入り事件の根幹となった勅使下向の際の上座、下座の問題は、浪士討入によって、すぐに幕府が翌年から席次を改めれば、世の中は暴発さえすれば、幕府を動かすことが出来るというようになってしまいます。
ですから幕府は100年の時を置いて、幕末近くなってから、席次を改めています。
時代はちゃんとつながっているのですね。


※この記事は2015年の記事のリニューアルです。
お読みいただき、ありがとうございました。
歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに
小名木善行でした。


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豊岳正彦

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豊岳正彦1 秒前
コメントが1個消えちゃったからもう一度。
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「12/15 StopTheSteal.us不正選挙を許さない国民運動 記者会見」
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豊岳正彦1 時間前(編集済み)
真子様ありがとうございます。アメリカには建国の時から憲法と軍法があります。憲法が不能の時軍法が働きます。防弾チョッキとヘルメットとロシア大使館や日本大使館や米軍基地へ避難してください。緊急脱出できます。

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みんなで菅総理のユーチューブチャンネルに実名でコメントを書き込もうぜ。
直ちに放送法を総理権限で廃止せよ。
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これが本当の主権在民日本国憲法の日本国主権者国民直接統治である。
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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: nezu3344@gmail.com
電話:080-4358-3739
出身:静岡県浜松市
住所:千葉県野田市
執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」、「百人一首塾」を運営。
またインターネット上でブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。他に「ねずさんのメールマガジン」を発行している。
動画では、CGSで「ねずさんのふたりごと」や「Hirameki.TV」に出演して「明治150年真の日本の姿」、「日本と台湾の絆」、「奇跡の将軍樋口季一郎」、「南京事件は4度あった」、などを発表し、またDVDでは「ねずさんの目からウロコの日本の歴史」、「正しい歴史に学ぶすばらしい国日本」などが発売配布されている。
小名木善行事務所 所長
倭塾 塾長。
日本の心を伝える会代表
日本史検定講座講師&教務。
《著書》
『ねずさんの昔も今もすごいぞ日本人』
『ねずさんの 昔も今もすごいぞ日本人!和と結いの心と対等意識』
『ねずさんの 昔も今もすごいぞ日本人!日本はなぜ戦ったのか』
『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』日本図書館協会推薦
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