日本的議論のルール



第81回 倭塾開催 令和3年3月21日(日)13:30開講 場所:東京・富岡八幡宮・婚儀殿

お互いの言い分をちゃんと最後まで聞いて、その上で議論する。
ただし、議論のための議論、すなわち屁理屈は認めない。
また人格攻撃は行わない。
議論は、あくまでその問題に限定して行う。
ひとたび議論が決したら、あとで文句を言わない。
これが日本的議論のルールです。

20210319 堀秀政
画像出所=https://app.k-server.info/history/hidemasa_meijin/
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歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに
小名木善行です。

豊臣秀吉にたいへん可愛がられた武将に堀秀政(ほりひでまさ)がいます。
この堀秀政が福井県の北の庄の城主だったときのことです。
城の門前に、一本の札が立てられました。
内容は、秀政に対する批判の数々です。

秀政の部下たちは怒ったそうです。
「犯人を捜し出して厳重に処分すべし!」という声もありました。
けれども、秀政は「やめろ。その札を持って来い」と命じました。

そして大広間に家臣を集め、
「お前たちに聞く。ここに書かれたことは偽りや虚言なのか、真実なのか、討論しよう」と部下たちに持ちかけたのです。
どうなったのでしょうか?

部下たちは、真剣な検討をはじめました。
「これは書き手の勘違いだ」
「これは言われる通りだ。城が悪い」
一条ごとに率直な意見が交されました。

すべての項目についての議論が終わったとき、それまで黙っていた秀政が言いました。
「今の討論の結果を新しい立て札に書いて門の前に立てよ。書き手がどのような反応をするか見たい」

一夜明けたとき、秀政が立てさせた札の前に、一枚の紙が貼ってありました。
そこには、こう書かれていました。

「おそれいりました。堀様はご名君です。どうぞいまのままのご政道をお続けください」


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このような話が成立した背景にあるのは、堀秀政にしても、また秀政の前で忌憚(きたん)のない議論を戦わせた家臣たちにしても、それを立て札にした書き役にしても、そしてまたご政道に対する批判を書いた書き手にしても、全員に共通しているのは、「互いに相手の話をちゃんと聞き、その真意を受け止め、それぞれが互いに率直かつ誠実であった」からです。

すこしまとめると、
1 お互いに自己主張だけを繰り返すのではなく、相手の話をちゃんと聞いて真意を受け止めようとした。
2 身分の上下に関わりなく、互いが互いに対して率直かつ誠実に対応した。
3 お互いに自分の意見に固執するのではなく、国想う心という共通する心を抱いていた。
4 何が良いことで何が悪いことなのか、互いに価値観を共通させていた。
5 同じ言語を用いていた。
といった点があげられようかと思います。

5の同じ言語ということには、もうひとつ、日本語の特殊性も理由のひとつとして加えられるかもしれません。
日本語は、「朝起きたら眠かった、眠くなかった」というように、相手の話を最後までちゃんと聞かないと、意思がどっちにあるのかわかりません。
ですから自然と、相手の話を最後までちゃんと聞く姿勢が備わります。
このことは実は日本の文化の基礎になっているかもしれません。

欧米やChinaの言語では、結論が先にきて、あとから理由が来ます。
理由の前に結論だけが先行しますから、相手の話を最後まで聞かず、結論に対して反応的になる。
パブロフの犬と同じです。
結論を言われる、反応する。
反応は、ときに対立を生み、それが闘争に至る。
最後まで話を聞けば、なんてことないことなのに、思い込みで対立してしまうわけです。
ですからどうしても最後まで話を聞かせようとすると、そこに「威嚇」が必要だったりするわけです。

言語というのは、大昔には語順なんてものは、かなりいい加減なものだったと言われています。
いまでも、厳密にいえば、書き言葉と話し言葉は違います。
中国語など、統一された文法があるように、いまの日本人は誰もが思い込んでいますが、これは日本が明治維新後に近代化を成し遂げて日清戦争に勝ってから、Chineseの留学生たちがやってきて日本語の統一的な文法を学び、それに感銘を受けて、中国語にも、これを応用してからはじまったものです。

ですからもともとの中国語では、文法なんてありませんから、たとえば杜甫の有名な歌の「国破山河在 城春草木深」は、韻を踏むためにこの語順になっていますが、当時の言語的には、「破国在山河、春城深草木」でもぜんぜんOKだったわけです。

ところが日本では、11世紀には、源氏物語や方丈記に代表されるように文学が生まれ、また鎌倉時代頃になると琵琶法師による箏曲「平家物語」に代表されるような「語り」の文化が発達します。
さらにこれが江戸時代には、落語、浪曲、講談のように、語りそのものが話芸として発達していますが、その根底にあるのは、話を最後まで聞かせるための工夫、つまり結論はなんだろうと思わせて、最後の最後まで話を引っ張る工夫などがされ、それが話し言葉や書き言葉の文法として定着しています。

この、「話を最後までちゃんと聞く」という言語作法は、実はとても大切なことで、ワクワクさせて、ひっぱってひっぱって、最後にオチがつくのですが、こうした芸能は、実は諸外国に、あまり例がありません。

たとえは良くないかもしれませんが、以前、ホワイトシェパードのブリーダーをやっている人のことを、このブログでご紹介したことがあります。
アメリカで生まれ育ったホワイトシェパード気が荒い。
ところがその子を日本に連れて来ると、しばらくすると、飼い主の言うことをちゃんと聞き、他の犬たちにも思いやりをもって接する子に変わっていくのだそうです。

身分や地位を越えて、相手の言うことをちゃんと聞いて、互いに納得して前に進む。
あたりまえのことのようですが、実は世界では決してあたりまではありません。
国によっては、日常会話さえも、いちオクターブ甲高い大声で、相手を叩き伏せなければならないといった披露がある国さえもあるというのが、世界です。

それが日本では、ちゃんとできていた。
なぜかといえば、そうした「議論を大切にする」ということが、1400年も昔の聖徳太子の十七条憲法にちゃんと書かれているからです。

日本は和の国だから議論が下手・・・というのは戦後教育による刷り込みです。
幕末の志士たちだって、おおいに議論したし、議論が激高して、涙を流すこともしばしばであったと伝えられています。
ただし、だからといって、議論のための議論・・・これを屁理屈といいますが、そういうものまで許容されたわけではありません。
「議を言うな!」というのは、武家に限らず日本の若衆文化の一般です。

議論しろといってみたり、議を言うなと言ってみたり、いったいどっちなんだ、と言われそうですが、社会には秩序があります。
秩序とは、上下関係のことを言います。
ですから通常は、この秩序が重んじられます。

ただし、大切なこと、みんなでしなければならないことを決めるときには、上下(かみしも)を脱いで、みんなが平手で、しっかりと議論する。
そういうことを、ちゃんと行ってきたのが、日本古来の文化です。
ですから決して日本人は議論が下手なわけでもなければ、議論が嫌いなわけでもない。
それにそもそも日本語は、相手の話をちゃんと最後まで聞かなければ、意味がわからないようにできています。

お互いの言い分をちゃんと最後まで聞いて、その上で議論する。
ただし、議論のための議論、すなわち屁理屈は認めない。
また人格攻撃は行わない。
議論は、あくまでその問題に限定して行う。
ひとたび議論が決したら、あとで文句を言わない。
これが日本的議論のルールです。


お読みいただき、ありがとうございました。
日本をかっこよく!! むすび大学。


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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年生まれ。浜松市出身。上場信販会社を経て執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。またインターネット・ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。「歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに」という理念を掲げ活動する。古事記・日本書紀・万葉集などの原文を丁寧に読み解き、誰にでも納得できる日本論を発信。

《著書》日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、その他執筆多数。

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