日本書紀講義7 天照大御神の誕生



次回倭塾は9月18日(土)13時半から富岡八幡宮婚儀殿。
テーマは「ご先祖から預かった大切な日本」です。
詳細は→https://www.facebook.com/events/453891059222691


日本書紀は、元正天皇に提出された養老4年(西暦720年)の翌年以来、終戦の年である昭和20年(西暦1945年)まで、1200年以上にわたって我が国の正史として扱われてきた書です。
「その国の民度は史書によって定まる」と言われますが、そうであるとすれば、日本書紀は我が国の民衆が高い民度を得るひとつの原因となった書ということになります。
従って我々がいま日本書紀を学ぶことは、日本人としてのアイデンティティを学ぶことにつながります。
大切な書なのです。

20210912 天照大御神
画像出所=https://spirituabreath.com/amaterasuoumikami-tanjyoubi-100338.html
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日本書紀講義6 陽神左旋・陰神右旋(修正版)
日本書紀講義7 天照大御神の誕生

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これまでのあらすじ
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前回の抄で、ともに夫婦となられたイザナギとイザナミは、淡路島、本州、隠岐の島などの大八州国を生んだ後、次に海、川、山、木々、草などを生み ます。
今回の解説は、ここからになります。

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原文を読んでみる
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ここにおいては            既而
いざなぎみこと いざなみみこと  伊奘諾尊・伊奘冉尊
ともにはかりて いはくには    共議曰
あれおほやしま やまかはくさき 吾已生大八洲國
すでにうむ                及山川草木
なんぞあめした きみうまむ     何不生天下之主者歟
ひのかみをうみ            於是共生日神
おほのひるめの むちとまをす   号大日孁貴
 おほひるめむち              大日孁貴
 これおほひるめ むちといふ     此云於保比能武智
 むちをよみては りきてひのかへし 音力丁反
 あるふみいはく             一書云
 あまてらすおほみかみ         天照大神
 あるふみいはく              一書云
 あまてらすおほひるめのむちのみこと  天照大日孁尊
このみこひかり うるはしく        此子光華明彩
りくごうのうち てりとほす        照徹於六合之内
ゆへにふたつの はしらかみ      故二神
よろこびて まをさくは          喜曰
あがこおほしと いへりとも       吾息雖多
かくくしく あやしきこなし         未有若此靈異之兒
ひさしくこのくに とどまるはよからず 不宜久留此國
おのずとはやく あめにおくりて    自當早送于天
あめのうえの ことにさずけむ     而授以天上之事
このときあめと つちのあひさる    是時天地相去
まだとほからず              未遠
これゆへに あめのみはしら     故以天柱
もちてはあめの うへにあげるなり  擧於天上也

《現代語訳》

伊弉諾尊と伊弉冉尊は、「私たちは、すでに大八洲の国や、山川草木を生みましたから、次には天下の主となる者を生みましょう」と述べられ、こうして日の神が生まれました。 名を大日孁貴と号しました。(大日孁貴と書いて「おほひるめのむち」と読みます。孁の字は国字で霊を変えた字です)
この神様のことを一書(あるふみ)は天照大神(あまてらすおほみかみ)と書いています。
また一書は、天照大日孁尊(あまてらすおほひるめのみこと)と書いています。
この子(みこ)は、光華明彩(ひかりうるはし)く、上下四方を内側から照らし徹(とお)しました。伊弉諾尊と伊弉冊尊はたいへん喜ばれて、
「たくさんの子を生んできたが、いまだこのような奇(く)しき子は生まれたことがない。この子はこの国にとどめるのではなく、天上界に送って、天上界の事に授けよう」と申しました。この頃はまだ天地は、互いに近かったので、二神は天の御柱(みはしら)を使って、この子を天上界に挙げられました。

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日本書紀は天照大御神を大日孁貴(おほひるめのむち)と書いている
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伊勢神宮の御祭神といえば天照大御神(あまてらすおほみかみ)です。
天照大御神は我が国の最高神です。
その御出生について日本書紀は、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冊尊(いざなみのみこと)が、はじめに国土を生(う)んだあと、次に海や川、山や草木などを生み、その後にそれまでに生んだすべの神の子らの主人になる神を生(う)もうと話し合って(つまり意図して)生んだのだと記(しる)しています。

こうして生まれた神様が「大日孁貴(おほひるめのむち)」です。
日本書紀はこの神様のことを、わざわざ
「大日孁貴は、
 此(これ)を
 於(お)保(ほ)比(ひ)屢(る)咩(め)能(の)武(む)智(ち)
 と云う」
と注釈しています。
ですから読みは間違いなく「おほひるめのむち」です。
そのうえで、
「書によっては天照大御神
 (あまてらすおほみかみ)と書き、
 あるいは他の書には天照大日孁尊
 (あまてらすおほひるめのみこと)
 と書いている」
と注釈しています。
天照大御神のことなのだから、最初からそのように書けば良さそうなものを、意図して「大日孁貴」と書いているということは、そこに何やらメッセージがありそうです。

そこで問題になるのが「孁(め)」という漢字です。
日本書紀はこの「孁(め)」は、「孁音力丁反」と注釈を付けています。
これで「孁(め)の音(よみ)は力丁(りきてい)の反(かえ)し」と読み下すのですが、これは「反切(はんせつ)」といって、前の音(力)の最初の読みと、次の音の「丁」の後ろの読みを取って読むことを意味します。
「力」は「ri-ki」、「丁」は「tyou」ですから、その最初と最後の音をとって「ru=ル」と読みなさいと注釈しているわけです。

これは現代語でも、たとえば「教(おそ)わった」が「おさった」と発音されることと同じです。
この場合ですと、
 教わった   osowatta.
 おさった   osatta.   になります。

この「孁」という字は、日本で生まれた国字(こくじ)で、中国漢字には「孁」という文字はありません。あるのは「霊」です。日本書紀は「霊」の字の旁(つくり)の部分を「女」に変えて、「この字は霊という字なのだけれど、天照大御神は女性神だから「孁」と書きました」とわざわざ注釈しているわけです。

そのうえで、「大日孁貴」の読みは「於保比屢咩能武智(おほひるめのむち)」であると注釈しています。
従って「大日孁貴」の読みは「おほひるめのむち」で間違いありません。

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大日孁貴と書いた理由
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ではなぜ日本書紀は、天照大御神のことを、わざわざ「大日孁貴」と書いたのでしょうか。
これについては古来謎(なぞ)とされてきたのですが、拙著『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』で、ひとつの見方として、これはもともとは縦書き文書で「霊女」と書かれていたものを、詰めて「孁」と書いたのではないかと解説させていただきました。

 理由は三つあります。

1 中国漢字に「孁」という字は存在しない。
2 「霊」の旧字は「靈」だが、これを「るめ(ru-me)」と読むことはない。
3 「霊」だけならば「る」と読むことができ、「女」は「め」と読める。

つまりもともと「大日霊女貴(おほひるめのむち)」と書かれていたものが、どこかで「霊女」がつながって「孁」のかもしれないと解説させていただきました。実際「大日霊女貴」ならば「おほひるめのむち」と読むことができるからです。
また、「大日霊女貴(おほひるめのむち)」と表記しますと、なにやら「霊女」のところが、曖昧な《幽霊のような存在みたいな》印象になってしまいます。
天照大御神は我が国の最高神ですから、そのような表記はよろしくないということになって、「霊女」をおもいきってつなげて「孁」としたのではないでしょうか。
いまのところ「孁」の記述に関しては、これ以上の見方は他にないと思います。

そして「霊」という字は、略字が「巫」ですから、「霊女」を略字で書けば「巫女(みこ)」となります。
すると「大日孁」は、
「大日巫女(おおいなるひのみこ)」となります。
「大」を取れば「ひみこ《日巫女》」です。

同じ音の女性が魏志倭人伝にも「卑弥呼(ひみこ)」として登場します。
卑弥呼は完全に当て字ですから、もともとは「日(ひ)の巫女(みこ)」であり、その女性が「光華明彩(ひかりうるはし)く、上下四方を内側から照らし徹(とお)す」ような素晴らしい女性であったことから、いつしかその女性が我が国の最高神となったのかもしれません。

しかしだからといって魏志倭人伝にある「卑弥呼」を、日本書紀の大日孁貴(おほひるめのむち)と同一視することは間違っていると思います。
魏志倭人伝の記述は二世紀後半から三世紀にかけての出来事です。
その頃倭国で大乱があって、卑弥呼がこれを鎮(しず)めたという記述がありますから、このときの卑弥呼が偉大な女性であったことは事実であろうと思います。
けれど我が国の神語(かむかたり)にある大日孁貴が「日の巫女」であるのならば、そうした巫女の職は代々受け継がれていくものです。
その最初の女性が、イザナギとイザナミが生んだ「大日孁貴(おほひるめのむち)」であったのではないでしょうか。

いまでもお伊勢様で毎年天照大御神の依代になる 女性が選ばれ、儀式が行われていますが、ときにその依代となった女性が、深夜に光り輝くことがある のだそうです。実際、写真で観たことがありますが、 真っ暗な中に、その女性だけがまるで内側から発光しているかのように光っているのです。
世の中には 不思議なことがあるものです。

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大和言葉での「おほひるめのむち」とは
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ではもうひとつ、「おほひるめのむち」とは、いかなる意味を持つのでしょうか。
「おほ」は偉大な、「ひ」は日ノ神を意味します。「め」は女性です。問題は「る」と「む・ち」です。大和言葉では「る」は「流留畄」で、流れやそれを留めることを意味します。
ですから「ひるめ」なら「太陽の光を留める《もたらす》女性」という意味になります。
「む」は無、「ち」は凝固するものを意味しますので、「むち」ならば「決してひとつにかたまったり、偏在することなく、すべてにあまねく行き渡る」ことを意味します。
太陽の光りは、すべてをあまねく照らします。
そのことを「ひるめ」の「むち」と表現したのではないでしょうか。

だからこそこの神様は、
「光り華(はな)やかに明(あかる)く彩(いろど)られ、
 上下四方を内側から照らしとおす神様であったため、
 伊弉諾尊と伊弉冊尊がたいへん喜(よろこ)ばれて、
 『たくさんの子を生んできたが、
  このような奇(く)しき子は生まれたことがない。
  この子はこの国にとどめるのではなく、
  天上界に送って、天上界の事に授けよう』
と話し合い、このころは『まだ天地が互いに近かったので』、二神は天の御柱(みはしら)を使って、この子を天上界にあげられたと日本書紀は描写しているわけです。

ここでいう天上界とは、高天原のことですから「大日孁貴神(おほひるめのむちのかみ)」は、高天原の最高神となられたというわけです。

日本書紀は、元正天皇に提出された養老4年(西暦720年)の翌年以来、終戦の年である昭和20年(西暦1945年)まで、1200年以上にわたって我が国の正史として扱われてきた書です。
「その国の民度は史書によって定まる」と言われますが、そうであるとすれば、日本書紀は我が国の民衆が高い民度を得るひとつの原因となった書ということになります。
従って我々がいま日本書紀を学ぶことは、日本人としてのアイデンティティを学ぶことにつながります。
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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
連絡先: info@musubi-ac.com
昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

《動画》 「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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