日本書紀講義8 月神、蛭児、素戔嗚尊の誕生



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沈んだヒル湖よりも、天照大御神や月神は、もっと古い時代からあったのだ《つまりヒル湖の周囲で人々が生活をしていた時代や、それ以前のもっと古い時代》ということを、記紀は、この短い文章の中で書き表しているのかもしれません。

南米の葦船と葦を使った生活
20210922 葦舟

写真はチチカカ湖のもので、友人が現地で撮影したものをお借りしました。あたりまえのことですが、人間は「身近にあるもの」を加工し、工夫して生活します。日本もペルーと同様、葦(あし)が繁殖します。葦は成長が早く、密生し、収穫しやすくて、かつ水に浮きます。つまり葦は、水辺の生活に欠かせない生活必需品です。チチカカ湖のあたりでは、現地の人々が船も家も床も屋根も、葦を束ねて利用して生活しています。葦船を作ることは、すくなくとも大木を伐り倒し加工して船や家にするよりも、ずっとはるかに楽に早く行うことができます。我が国も葦が生えます。ですから万年の昔の生活は、日本もペルーも、きっと同じようなものであったろうと推測することができます。


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日本書紀講義8 月神、蛭児、素戔嗚尊の誕生

前回は、天照大御神の御誕生の事を書かせていただきました。
今回は続いて月神(つきかみ)、蛭児(ひるこ)、素戔嗚尊(すさのをのみこと)の誕生を解説します。

▼原文を読んでみる

次生月神 つぎにはつきの かみをうむ
 一書云  あるふみに いはくには
 月弓尊  つきゆみみこと
 月夜見尊  つきよみみこと
 月読尊  つきよむみこと
其光 そのひかり
彩亜日 ひにつぎて うるはしく
可以配日而治 ひにならび しらしめむため
故亦送之于天 これもまた あめおくる

次生蛭児 つぎにはひるこ うみたもふ
雖已三歲脚猶不立 みとせになりて あしたたず
故載之於天磐櫲樟船 あめのいはくす ふねにのせ
而順風放棄 かぜにまかせて うちすてぬ

次生素戔鳴尊 つぎにはすさの をのみこと
 一書云  あるふみに いはくには
 神素戔鳴尊  かみのすさの をのみこと
 速素戔鳴尊  はやのすさの をのみこと
此神有勇悍以安忍 このかみいさみ たけくていふり
且常以哭泣為行故 つねにもなきて いさちりて
令国内人民多以夭折 くにうちのひと さわにしなしむ
復使青山変枯 またあほやまを へんじてからす

故其父母二神 ゆへにちちはは ふたつかみ
勅素戔鳴尊 すさのをの みことにいはく
汝甚無道 なむじはなはだ あじきなく
不可以君臨宇宙 このそらの きみにたるなし
固當遠適 まことにまさに とほくいね
之於根国矣遂逐之 これねのくにに つひにやらひき

《現代語訳》
次に月の神を生みました。
(その名は他の書には、
 月弓尊(つきゆみみこと)、
 月夜見尊(つきよみみこと)、
 月読尊(つきよむみこと)とあります)
月の神の光は、天照大御神に似て彩(うるわし)かったので、太陽と同じく天に配置して治(しらし)めるため、天に送りました。

次に蛭児(ひるこ)を生みましたが、三歳経ってもまだ脚(あし)が立たなかったため、天(あめ)の磐(いわ)の櫲樟(くすのき)の船に載(の)せて、風に順(まか)せて放棄(うちすて)ました。

次に素戔鳴尊(すさのをのみこと)が生まれました。
(その名は他の書には、
 神素戔鳴尊(かみのすさのをのみこと)
 速素戔鳴尊(はやのすさのをのみこと)とあります)
この神は、勇悍(いさみたけ)くて忍(いぶり)がやすく、且(また)、常に泣き哭(いさち)るを行(わざ)となす故(ゆえ)に、多くの国内(くにうち)の人民(ひとくさ)を夭逝(し)なせてしまいました。またあるときは、青々とした緑豊かな山を枯らしてしまいました。これゆえ父母の二神は素戔鳴尊(すさのをのみこと)に勅(みことのり)して言いました。
「おまえははなはだ無道(あじき)ない。
 この宇宙におまえが君たるところはない。
 遠くに行って戻って来ぬが良かろう」
こうして素戔鳴尊(すさのをのみこと)は根の国に追放されました。


▼万年の記憶
日本書紀は、まず天照大御神がお生まれになられたたあと、月神、蛭児(ひるこ)、スサノヲの順で生まれたと書いています。
これは古事記に馴染みのある方からすると、すこし違和感をおぼえるところかもしれません。
図示すると次のようになります。

『古事記』
 水蛭子(ひるこ)、国生み、神生み、天照大御神、月読神、須佐之男神
『日本書紀』
 国生み、神生み、天照大御神、月神、蛭児(ひるこ)、素戔嗚尊

このように順番に誤差が出るのは、こうした数千年《もしくは万年》の単位の古い歴史の物語にはよくあることで、ひとことでいえば、とても古い時代のお話であることを象徴しているといえます。

両者に共通しているのは「ヒルコを船で流した」という記述で、
『古事記』は「葦船(あしのふね)で流し去る」とし、
『日本書紀』は「天磐櫲樟船(あめいはのくすのきのふね)に載(の)せて、風に順(まかせ)て放棄(うちすて)ぬ」と書いています。
葦船(あしぶね)はヨシズなどに使われるアシでできた船、
天磐櫲樟船は、クスノキでできた櫂(かい)《オールのこと》付きの丈夫な帆船を意味します。

ちなみに我が国では三万八千年前に、伊豆から沖合57キロの海上に浮かぶ神津島まで船で往来していたことを示す石器が沼津や長野で発見されていますが、波が荒くて潮流の強い外洋で、この距離を丸木舟で往復することはできません。
しかも帰りには大量の石を積載して航海するのです。
そしてこうした航海を実現するには、いまでも南洋の人々が用いているアウトリガー付きの帆船(映画『モアナと伝説の海』にも登場していました)が用いられていたのであろうといわれています。


▼二万年前の日本
またさらに二万年前になりますと、この頃の急速な寒冷化によって陸上の氷河が発達し、海面がいまよりも140メートルも低くなり、いまの東シナ海が「東東亜平野」と呼ばれる大陸に、また琉球諸島は巨大な列島となって東東亜平野と琉球列島との間に巨大な塩水湖を形成していました。

このあたりは氷河期にありながらも気候が温暖、透き通った浅い海に海藻(かいそう)が繁殖し、これを餌(えさ)にするプランクトンが繁殖、さらにこれを捕食する大小様々な魚がいたと考えられています。
そしてこの内海が、なんと山蛭(やまびる)そっくりの形をしていました。
そこで付いた名前が「ヒル湖」です。

二万年前といえば、いまよりもずっと寒かった時代で、日本列島は樺太北部なみの気象状況です。
つまり原始的生活を営むには、あまりに寒かった時代です。
ところがヒル湖のあたりは海流の関係で温暖で、しかも水が綺麗で水深が浅いですから、魚や海藻(かいそう)が豊富に獲れ、波もおだやかだから、人々が大変に生活しやすいところであったようです。

ちなみにずっと時代が下って八世紀に書かれた『契丹古伝(きったんこでん)』では、中国神話にある黄帝や神農、堯舜、西王母などは「皆倭種なり」と書いています。
万年の昔、倭人の基になった人々がヒル湖の周囲で暮らしていて、海面の上昇によって、その住むところが、大陸や日本列島、琉球諸島などに別れていったのだとするなら、それも十分にありえることだということになります。

不思議なことに沖縄には「天照大御神は、最初に沖縄に降臨された」という伝誦があるのです。これもまた不思議なことです。

けれどそのヒル湖も東東亜平野も、氷河期の終わりとともに陸上の氷が溶けだし、海面が上昇することで、およそ六千年前には、すべて水没してしまいました。
もしかすると、そんなとほうもない歴史を、記紀は「蛭児《=ヒル湖》が海に流れて沈んでしまった」と書いているのかもしれません。
そして沈んだヒル湖よりも、天照大御神や月神は、もっと古い時代からあったのだ《つまりヒル湖の周囲で人々が生活をしていた時代や、それ以前のもっと古い時代》ということを、記紀は、この短い文章の中で書き表しているのかもしれません。

 
▼ 天磐櫲樟船(あめのいわくすふね)
原文にある天磐櫲樟船(あめのいわくすふね)は、漢字で見るとまず「磐」の字の「般」のところが手漕ぎ用の櫂(かい)《オールのこと》が付いた帆船を意味します。
それが石のように堅いから「磐」という字になります。
そして「櫲樟(よしょう)」というのは「クスノキ」のことです。

櫂(かい)付きでクスノキでできた大型の帆船といえば、すぐに思い浮かぶのが大昔に地中海で活躍した「ガレイ船」です。
「ガレイ船」は地中海のように波が穏(おだ)やかな海でなければ航行できない船です。
なぜなら波の荒い外洋では、櫂のところから浸水して、船が転覆してしまうからです。
このため大航海時代になると、カラベル船と呼ばれる櫂のない大型帆船が用いられるようなりました。
波の穏やかな地中海から、波の激しい大西洋に航海に出るようになったからです。

もし「磐櫲樟船」がガレー船のような櫂(かい)を持った船なら、その船は地中海のような静かな内海を航海していなければなりません。
そして仮に琉球列島と大陸に挟まれたヒルのような形をしたヒル湖が、二万年前の寒冷期における人々の生活の拠点であったとしたならば、そこはなるほど気象変動とともに、海に沈んでしまったと考えられるわけです。
そのことを記紀は象徴的に「海に流した」と書いているのではないかと想像することができます。
そうだ、と決めつけているわけではありません。あくまでも、そのようにも考えられる、ということです。

 
▼ 素戔鳴尊(すさのをのみこと)
そしていよいよ待望の素戔鳴尊(すさのをのみこと)の登場です。
はじめにある「勇悍(いさみたけ)くて忍(いぶり)がやすく」というのは、要するに忍耐強いの反対で、たいへんに要求が強い子であったことを意味します。
そしていつもへそを曲げては、泣きわめいているわけです。

ところが普通の赤ん坊が泣くのと、神様が泣くのとでは、その影響力が違います。
なんとその泣き声で、国中の人々が死んでしまうし、青々とした緑豊かな山まで枯れてしまう、というわけです。

この描写は大風をともなう台風などの自然災害を想起させます。
おそらく古代におけるある時代、長期間に渡って強風が吹き荒れ、落雷や大雨が相次ぐ時代があったのでしょう。

これゆえ父母の二神は素戔鳴尊(すさのをのみこと)に、
「おまえははなはだ無道(あじき)だから、この宇宙(そら)におまえの居場所はない。根の国に行け」と、追放されてしまうわけです。

スサノヲは、偉大な神様です。
そうであるなら、普通なら「幼い頃から優秀な子であった」と書かれそうです。
ではなぜ古事記も日本書紀も、スサノヲ誕生のシーンで、いわば暴君のような子であったと描写しているのでしょうか。
この疑問を持ちながら、続きはまた次回。


※この記事は月刊玉響320号(2021.3月)に掲載したお話です。
お読みいただき、ありがとうございました。
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小名木善行(おなぎぜんこう)

Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
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昭和31年生まれ。浜松市出身。上場信販会社を経て執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。またインターネット・ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。「歴史を学ぶことでネガティブをポジティブに」という理念を掲げ活動する。古事記・日本書紀・万葉集などの原文を丁寧に読み解き、誰にでも納得できる日本論を発信。

《著書》日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、その他執筆多数。

《動画》「むすび大学シリーズ」、「ゆにわ塾シリーズ」「CGS目からウロコの日本の歴史シリーズ」、「明治150年 真の日本の姿シリーズ」、「優しい子を育てる小名木塾シリーズ」など多数。

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