ゲバルト国家



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 日本書紀は企画から完成まで、まる40年かけています。ということは、親の代、祖父の代からずっと編纂が続けられてきたものです。ようやく日の目を見ることになったとなれば、全国の誰もが歓迎します。そして、できあがった日本書紀を、何百年もの間、国民教育に用いてきたのです。
 こうすることで、日本は、国家権力と国家最高権威の分離を実現しました。そんなことを成功させることができたのは、世界の数千年の歴史に登場する数多(あまた)の国家の中で、なんと日本、ただ一国です。日本人は、このことの持つ意味の重要性を、あまりに軽く見すぎています。

平城京 朱雀門(復元)
202010122 平城京朱雀門
画像出所=https://gachimama.com/20190425suzakumonhiroba
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以前、赤穂浪士に対する幕府の処分のことを書いたときにも申し上げましたけれども、国の行政機構が、権威を持つ機構なのか、権力だけに頼る機構なのか、そこには雲泥の差があります。

一般に国家の三要素は、
 1 領域(Staatsgebiet:領土、領水、領空)
 2 人民(Staatsvolk:国民、住民)
 3 権力(Staatsgewalt)
とされていますが、この「3」の権力にある「Staats-gewalt(スターツ・ゲバルト)」は、「Staats(スターツ)が国家、「gewalt(ゲバルト)」が権力を意味します。

「gewalt(ゲバルト)」というのは、暴力を意味する単語でもあります。
同じドイツ語でも、権力のことを「macht(マクト)」と書くなら、それは実行力を意味することになるのですが、国家権力が「ゲバルト」であるということは、西洋では、国家そのものを、(諸説ありますが)ある種の暴力装置とみなしているといえるのかもしれません。

要するに「権力=暴力」であるわけで、一定の領域内に住む人々を暴力で支配するというのなら、それは日本で言えば、ヤクザのシマと何ら変わりがないことになります。

しかし我々日本人の感覚としては、暴力団の縄張りと、国家の領域は、まったく意味が異なります。
我々日本人にとって国家機関とは、あくまで行政(治世)機構のことです。
ですから日本人にとっての国家要素は、暴力ではなく、「民衆に対する責任ある行政を行う政府」がこれに代わります。

ということは、日本人は政府に責任を求めていることになります。
これは当然のことで、権力があるということは、当然、その権力の大きさに応じた責任を伴うものと考えられるからです。
日本人にとっては、それは、ごく自然な、ごくあたりまえのです。

少し考えたらわかることですが、権力に責任を求めるということは、上に述べた国家の三要素のうちのひとつが「暴力(権力、ゲバルト)」である社会では、成立しません。
なぜなら、暴力を振るうことに責任を取ることなど、世の中にありえないからです。
だから暴力というのです。

早い話、他所の国に核爆弾を2発も落として幾十万の民衆を殺しても、そのことに責任をとった大統領は、誰もいません。
むしろ無理やり、それを正当化してしまうのが、まさにゲバルト政府そのものであるわけです。

チャイナの政府は、まさにそのゲバルト政府をそのまま地で行っている政府ですし、米国政府は、一応はキリスト教によって暴力が否定されるという前提を持ちながら、やはり政府そのものはパワーであり、そのパワーの最大のものが国家権力であり、その本質は、ゲバルトにあります。

私は個人的には寅さんが好きですが、その寅さんと売電陣営の確執の本質にあるものは、キリスト教的正義の観点と、政治的はパワーだとする主義との対立であり闘争といえます。

ここで注意が必要なことが、「キリスト教的正義」という点です。
正義そのものは責任を伴いません。
正義を実現するために用いられるのがパワーなのであって、正義(ジャスティス・Justice)そのものは、責任を伴わない。
あるのは奉仕だけです。

この点を、古代において政治的に明確に分離したのが日本社会です。
これはすごいことです。
なにしろいまから1300年前に、我が国は、国家最高の存在から暴力(ゲバルト)を切り離すことに成功し、それをいまでも保っているのです。

この、権力を持たない国家最高の存在が、国家最高権威です。
権威はオーソリティ(Authority)と訳されますが、バワーを持たない国家最高権威を成立させるのは、これがなかなか困難なことです。

なぜなら、パワー勝負の世の中にあって、パワーを超える存在の前に誰もがひれ伏す社会体制を実現するのです。
できそうでできることではありません。
実際、多くの国では、これを宗教的権威に頼ろうとして失敗しています。
なぜ失敗したのかというと、その権力に承認を与える宗教的権威が、唯一絶対神でならなければならなかったからです。
これはそうでなければなりません。
なぜなら、王に権威を授ける神が、「いや、他にも神様はいるし」てなことになったら収拾がつかない。
結局、正義を貫くためには、パワーに頼るしかなく、そのパワーの実現の方法は、ゲバルトしかなかったわけです。

ところが日本の古代の凄みは、ここに時間という概念を持ち込んだことです。
「古いものに価値がある」としたのです。
そのために、神話を整理統合して日本書紀をつくり、また百年以上前からの歌を整理統合して万葉集の編纂を行いました。
両者とも、何十年もの歳月をかけて編纂したものです。
これは時間をかけて、全国の諸豪族の意見も入れながら、繰り返し繰り返し内容の調整を図ることで、編纂したのです。

日本書紀は企画から完成まで、まる40年かけています。
ということは、親の代、祖父の代からずっと編纂が続けられてきたものです。
ようやく日の目を見ることになったとなれば、全国の誰もが歓迎します。
そして、できあがった日本書紀を、何百年もの間、国民教育に用いてきたのです。
こうすることで、日本は、国家権力と国家最高権威の分離を実現しました。

そんなことを成功させることができたのは、世界の数千年の歴史に登場する数多(あまた)の国家の中で、なんと日本、ただ一国です。
日本人は、このことの持つ意味の重要性を、あまりに軽く見すぎています。

日本は天皇のシラス国です。
このことの意味を国民(臣民)の常識に取り戻すことこそ、日本が変わり、世界が変わり、そして人類社会が次元上昇するための第一歩です。


※この記事は2021年1月の記事の再掲です。
お読みいただき、ありがとうございました。
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Author:小名木善行(おなぎぜんこう)
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昭和31年1月生まれ
国司啓蒙家
静岡県浜松市出身。上場信販会社を経て現在は執筆活動を中心に、私塾である「倭塾」を運営。
ブログ「ねずさんの学ぼう日本」を毎日配信。Youtubeの「むすび大学」では、100万再生の動画他、1年でチャンネル登録者数を25万人越えにしている。
他にCGS「目からウロコシリーズ」、ひらめきTV「明治150年 真の日本の姿シリーズ」など多数の動画あり。

《著書》 日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』、『ねずさんと語る古事記1~3巻』、『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』、『ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀』、『ねずさんの知っておきたい日本のすごい秘密』、『日本建国史』、『庶民の日本史』、『金融経済の裏側』、『子供たちに伝えたい 美しき日本人たち』その他執筆多数。

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